幕間 フィルマンの罠(1)

「リーズと呼ばれていた女。アイツは、ライヤル家の者だったか」


 ナイラの政治の中心地である、ナイラ城。その一角にある豪奢な私室で、フィルマンは報告書に目を通していた。

 彼は今昼の公務で学舎を訪れ、その際に偶然リーズを目撃。異性として興味を強く持ったため、従者に情報を集めさせていたのでした。


「家族構成は父、母、兄。兄のユーグは、幼少期からジェナに留学していて…………む。好きな人は、兄。将来の夢は、兄と一緒に暮らすだと? 兄だらけじゃないか」

「調べたところリーズは一切他の異性に関心を持たず、十数回あったとされる告白も即座に断っているそうです。ユーグ以外は目に入っていないようですね」


 従者の男性・クレスが、苦々しい面持ちで告げる。

 リーズとディオンは、相思相愛。どちらも相手がいる生活を何よりも望んでおり、その影響もあって互いに異性に目がいっていなかったのです。


「ちっ、イカレタ兄妹だ。その様子だと……」

「殿下は内外共に完璧な御方ですが、彼女は折角の御好意を受け取りはしないでしょう。強制的な婚約以外の方法では、不可能だと明言致します」

「……だろうな。しかしそのやり方は、問題がある」


 人道的な問題、ではありません。リーズが捨て身で暴露を行った場合、簡単に揉み消せる――罪には問われないものの、民からの評判が大なり小なり下がってしまう。

 大勢に持て囃されたい願望の持ち主にとってそれは、ある種の死活問題なのです。


「されどあの女は、俺のモノにしたい。……何か手はないものか……」


 そうしてフィルマンは思案をはじめ、その日から2日後のことでした。従者による更なる情報収集や父の協力を得て、ある作戦が誕生します。


「兄と3か月間会えなくなり、酷く落ち込んでいる。ソレと、アレを使えば……。ふふふふふ……っ」

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