6話
6話
「フィルマン殿。お一つ、お願いしたい事があるのですよ」
マリーを見届けた兄様は、その視線を右に移した。
ああやってフィルマンの言い分を認めたのは、作戦の一つ。この状況を使って、何かしようとしているみたい。
「我々の判断ミスによって、ディオン殿やリーズには多大なる迷惑をかけてしまいました。俺達に出来ることがあれば何でもしますよ」
「貴方も被害者の一人ですが、御言葉に甘えさせてもらいましょう。こちらの願いは、民への報告です」
ディオン兄様は右手で私を招き、左の肩に優しく手を載せる。
「今現在貴国の民全員が、妹を悪人と誤認しています。そこでスムーズに真実が浸透するよう、大々的に報告をしていただきたい。ナイラ城に民を集め、民衆に直接伝えていただきたいのですよ」
「なるほど、それでしたら円滑ですね。喜んで実行いたします」
フィルマンは目を細め、丁寧に一礼。兄様へと静かに頭を下げて上げると、今度は私に対して片膝をついた。
「リーズ。今から発する言葉は、受け入れてくれなくていい。だが、聞いては欲しいんだ」
「………………はい。なんでしょう?」
「君を信じなくて、すまなかった。例えどんなに明確な証拠があっても、疑うべきだった……。君の素晴らしい部分を知っている俺だけは、最後までリーズを信じないといけなかった……」
肩を震わせて。俯いたまま、言の葉を紡ぐ。
「……俺は、婚約者失格だ。復縁する資格などなく、二度と君にアプローチはしない。金輪際、君に私的な理由で近づきはしない」
「……………………」
「けれど……。君が困った時は、手を伸ばす事を許して欲しい。償いをするチャンスを与えて欲しいんだ」
肩だけではなく声も震えるようになって、ここで顔が上がる。嘘偽り100%な真摯な目で、私を見上げる。
「リーズ、お願いします……っ。こんな俺ですが……。もしもの時は、助力をさせてもらえませんか……?」
「……………………………」
「リーズ、フィルマン殿の気持ちは本物だよ。受け取っておいてはどうかな?」
「……分かりました。そんな時が訪れたら、頼ります」
この期に及んで、私との――王族との関わりを維持しようとする、バカ。思い切り蹴り飛ばしてやりたくなったけど、兄様がそう言うので我慢する。
これもきっと作戦の一つだと思うから、顎を引いておいた。
「リーズ……っ、ありがとう……っ。ディオン殿も、ありがとうございます……っ。今後は二度と過ちを起こさないと誓い、初めの一歩として明日はしっかりと疑惑を払拭します」
「フィルマン殿、頼みました。ところでその発表ですが、僕と妹も同席して構いませんか?」
「え、ええ、構いませんが……。どういった御理由で……?」
「妹はこの国の方々と共に暮らし、そんな皆様が作った小麦や野菜を食べて育ちました。王太子として、そのお礼をお伝えしたいのですよ」
このお話は、家で出発を待っている時にしていたこと。大勢が集まる絶好の機会だから、本来しておきたかったこともするみたい。
「……できた御方ですね。民も喜びますよ」
「はは、そうだといいのですがね。そうしたら、開始予定時刻を教えていただけますか? 少々準備がありますので」
「承知しました。民への告知と集合に時間を要するため…………そうですね…………。午後の3時、はどうでしょうか?」
さっき出た、『少々準備』が気になる。その作業は、それまでに済むのかな?
「3時ですか、良いですね。その時間でお願いします」
「はい、お任せください。それでは、夜も更けていますので」
「そうですね。今日はお開きとして、また明日(あす)お会いしましょう」
現時刻は午前の3時を過ぎちゃっているので、一先ずはここまで。門の前で別れたフィルマンは、やけにスッキリした顔で去っていったのでした。
去り際に兄様が呟いた、(明日をお楽しみに)に気付かないまま――。
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