5話(1)
「隣国ジェナの王太子、ディオン・クノアスと申します。突然の来訪を受け入れてくださり、感謝いたします」
「おっ、御頭をお上げくださいませっ。隣国の王太子殿下に来賓していただけて光栄ですわっ。こんなお姿で申し訳なく、恐縮ですわっ」
車椅子に乗って客間に現れたマリーは、兄様を見るや平静を失った。
黒目はせわしなく動いているし、汗はダラダラで言葉遣いはヘンテコ。来訪者の正体と現状を把握してしまった彼女は、室内にいる唯一の味方――フィルマンと私達を何度も何度も交互に見やり、パニック状態に陥っている。
「マリー・レーヴァ。ディオン殿は、先の事件についての情報を求めていらっしゃる。落ち着いて、冷静にお伝えしてくれ」
「か、畏まりましたわ……。お話を、させていただきますわ」
フィルマンとマリーは密かにアイコンタクトを送り、彼女は自分で車椅子を動かして移動。御両親がドアを閉めると、時折顔を顰めつつ――足を含め全身が痛む芝居をしつつぎこちなく進んでゆき、不意に。ソファーから立ち上がった兄様が、「手伝いましょう」と車椅子のハンドルを握った。
◇◇◇
「リーズ。僕は、三種類の方法を使ってお返ししようと思うんだ」
マリーの家に向かう途中。馬車に揺られていると、隣で左手の指が3本立った。
「同じ手を使えば相手に読まれてしまうし、前方の馬車にいるフィルマン殿も飽きるに違いない。そこで次は、別のやり方でマリー・レーヴァの化けの皮を剥がすよ」
「べつ……? 聴取じゃないとしたら、どうやって嘘と証明するおつもりですか……?」
車内にいるノンルさんと一緒に考えてみたけれど、全然思いつかない。
マリーの足を調べたら証明できるけど、偽装の診断書があるからギプスは外せないし……。矛盾とか不自然を指摘する以外、どんな方法があるんだろう。
「さっきは、『頭』を使った。だから今度はそれ以外で、使用するのは『力』だね」
「ちから……」
「具体的な方法は、その時のお楽しみ。憂鬱な時間の伽になれば嬉しいよ」
◇◇◇
兄様の姿を見ていると十数分前の出来事が蘇り、その影響なのか一つの予想が降りてきた。
まさか……。次の方法って……っ。
《寸前で、バレちゃったみたいだね。そうだよ》
ガバッとディオン兄様の顔を見たら、口パクが返ってきた。
あ。やっぱり、そうなんだ。
《僕はね、大事な人を傷付ける者を許せない。だからそんな相手には、遠慮はしないよ》
兄様は爽やかな冷笑を浮かべ、その直後に悲鳴が響き渡る。
なぜなら。兄様は勢いよく車椅子を持ち上げ、座っていたマリーが宙に放り出されたのだから。
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