3話(2)
「こちらの耳に入った情報によると、妹が伯爵家の御令嬢マリー・レーヴァを負傷させたそうですね。その時の状況と罪を断定した事由を、改めてお教えください」
「「………………」」
「ギュータス殿? フィルマン殿? 改めて、お教えください」
「ぁ、ぁあ。うむ。しばし、待って頂きたい。関係書類を用意させる」
動揺していた国王は焦って頷き、ベルを鳴らして使用人を呼ぶ。そうしたらすぐに指定したものが届き、陛下はその中の一枚を右手で取った。
「……事が起きたのは、午後3時20分頃。場所は両者が通う学舎の3階、2階へと続く階段。そこでリーズが――いや、リーズ殿が、口論の末にマリー・レーヴァを突き落とす。慌てて駆け付けた目撃者が制止を試みたものの、逃げてしまった。と報告されておりますな」
「…………口論、ですか。そちらに関しての、詳細はございますか?」
「リーズ殿が、マリー・レーヴァが息子に色目を使ったと激昂した。そうありますな」
「ご家族の前で口にするのは、気が咎めるのですがね。リーズは以前から、彼女の容姿を羨んでいる節がありました。そこに勘違いが重なってしまい、溜まっていたものが爆発してしまったのでしょう」
「『一気に捲くし立てて、会話になっていなかった』。目撃者である5人が、そう証言していましたな」
これらはすでに用意していた台詞だから、二人とも余裕たっぷり。まるで本当にあった出来事のように、嘘しかない話を語った。
「入念に調査をした結果、目撃者達は被害者と加害者の両方に殆ど接点がない――どちらにも肩入れをする可能性はなかった。そこでそれらを証拠と認定し、リーズ殿を犯人としたのですよ」
「断定に関しては冤罪の発生があるため、5人への聴取は入念に行いました。……リーズが何をお伝えになかったのか知りませんが……。残念ながらそれらは、罪から逃れるための作り話なのですよ」
フィルマンは暗に、『婚約破棄をするためじゃない』と告げる。
なにが、残念ながらよ。アンタにはそういう意図があるし、マリーは怪我なんてしていないし、目撃者は全員が報酬を目当てに結託した人達。残念なのは、虚言を乱れ打ちするアンタ達でしょ!
「とはいえ。聴取を含めた全ての作業は、王族の主動で行ったもの。そちらにとっては、受け入れがたい部分もあるかと思います」
全く悪びれもせず、言葉を紡いでいたフィルマン。彼は急に、兄様を見つめて何度も頷いみせた。
「そこで提案なのですが、ディオン殿が改めて聴取をする、というのはどうでしょう? 御自身で接してみれば、目撃者の言葉が嘘か誠が判断できますからね」
「おお、それは良い事だ。ディオン殿、どうですかな?」
(…………なるほど。隠蔽は、自称完璧。どうせ調べられるなら、主導権を握ろう。という事か)
兄様は口元を隠し、ぼそりと呟いた。
自分達から、法螺を吹いてる人達に会わせようとしてるんだもん。絶対にバレない、って自信があるんだ。
(兄様。どう、しますか……?)
(あちらがそう来るなら、敢えてそのやり方で受けて立つよ。…………少しばかりお礼の方法を変えて、関係者を順番に懲らしめていこうか)
ユーグ――じゃなくてディオン兄様は、くすりと笑う。
その瞳には『調子に乗ってくれるね』という、静かな迫力が宿っているような気がして……。フィルマン達は、厄介な墓穴を掘り始めてしまった気がする。
「ギュータス殿、フィルマン殿、御言葉に甘えさせていただきます。そちらが実現できるのは、いつ頃になるのでしょうか?」
「善は急げ、と言いいます。父さん」
「うむ。これより各家に使者を送り、1~2時間後には始められるようにしよう。ディオン殿、少々お待ちくだされ」
二人は声を弾ませて立ち上がり、使用人に紅茶とお菓子を運ばせたあと揃って退室。上機嫌で、手筈を整え始めたのでした。
どちらも、自分達が場をコントロールしていると思い込んで。
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