幕間 ディオンの気持ち

 リーズを守れなかった。

 あの頃の僕は無力で、離れていくあの子を見送ることしかできなかった。


『びぇええええっっ!!』

 別れ際に突然泣き出し、父さんと僕から目を離そうとしなかったリーズ。


 あの顔と声は、今でも目と耳から離れない。


 ネール殿に抱かれた時はとても安心していて、機嫌よくしていたのに。別れを告げると嵐の訪れのように大泣きし、こちらを見続ける。

 それは、『嫌だ』としきりに訴えているようで……。これまでの人生の中で、この時ほど己の無力さを痛感したことはない。


『びぇええええええええっっ!! びぇええええっっっ!!』

『…………リーズ、約束するよ。君が悲しみの涙を止められないのは、今日が最初で最後だ。もう二度とそんな顔はさせないから』


 あの日の僕はリーズの小さな小さな手を握り、大切な家族と別れた。





 リーズ。僕はね、嘘つきになるつもりはないよ。

 こんな問題の発生は想定外だったけれど、そんなものは関係ない。

 どんなにイレギュラーであろうとも、君を傷付けることは許さない。


 今度こそ守るから、安心していてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る