2話(3)
「この問題は、自分達が対応できる範疇を超えています……。殿下、頼れるのは貴方様だけなのです」
「ディオン殿下の存在やリーズの正体を不特定多数に明かす行為は、様々な不都合を生むと重々承知しております。ですが、そうするより他はなく……。どうか、有るがままのお力でこの子をお救いください」
「勿論です。この件に関しましては、一切出し惜しみは致しません。この身にある全ての物を使って解決し、リーズを救います」
お父様、お母様、サシャ、最後に私。兄様は真摯な目線を順番に送り、室内にあった『午後4時32分』を示す掛け時計を一瞥しました。
「出発の前に親書を送っており、本日の午後9時に国王および王太子との秘匿の会談を取り付けています。そこで僕は自身とリーズの正体と関係を明かし、まずは無罪証明への足掛かりをつくる予定です」
「……足がかり、ですか。やはり、王族の力を以ってしても……」
「即座の解決は、不可能ですね。あちらは我々の正体を知得したら渋々再調査や保釈は認めるものの、罪は尚更認めません。他国の第一王女に数々の無礼を働いたとなれば、そのダメージは大きなものとなりますから」
自分勝手な婚約破棄と、事件の捏造。事が事だけに賠償金の支払いでは済まなくって、関係者は最悪死罪となってしまうはず。
だからあの手この手で誤魔化し、引き延ばしをしている間に私の罪を確定させようとするに違いない。
「けれど今し方申し上げましたように、一切出し惜しみは致しません。関係者全員を、確実に潰す所存です」
「……その御目は、決意をされた時の陛下を――御父上殿を思い出しました。不謹慎ではありますが、相手に対して同情心が芽生えますね」
「そうね、あなた。全ては、時間と抵抗に比例する。殿下達はすぐ認めないと、後々大変な事になるわね」
兄様の顔を見たお父様とお母様が、安堵しながら物騒なことを言い出した。
相手に同情? あとあと大変?
すぐ認めなかったら、一体何が起きるの……?
(…………リズ、ワタシね。知らない事が幸せな時も、あると思うの)
(…………サシャ。私も同感よ)
私達は頷き合って、口を噤む。
何も聞いていないし、なんとも感じなかった。この話題にはもう、触れないようにしよう。
「リーズ。今夜の会談では、君の存在と言葉も重要になる。そのため、君にも同行をお願いしたいんだ」
サシャと一緒に心を整理していると、兄様の顔が私に向いた。
「お城で王太子達と会うのは辛いと思うけど、傍には僕がいる。隣で守るから、安心してね」
「はい。兄様が居てくださるのなら、心配は何もありません」
兄様は、昔から勉強やお仕事が忙しくって――王太子の都合上、滅多に会えなかった。顔を合わせられるのは月に1回で、その時も1時間ですぐバイバイになっていた。
だけど兄様がいてくれる時は、いつも不思議な安心感があった。だから、大丈夫。たとえ兄様が王太子じゃなかったとしても、隣に居てくれるだけで不安は消え去っちゃうんだよね。
「兄様、私のためにありがとうございます。今晩は、よろしくお願いします」
「これは、僕が――僕達みんながやりたくてやっている事で、リーズは気にしなくていいんだよ。それじゃあ重いお話は一旦お仕舞いにして、その時までのんびり楽しく過ごそうか」
すぐにそんな言葉が返ってきて、兄様曰く気分転換の時間の始まり。折角なので兄様の従者さんや専属の御者さんも招いてカードゲームや食事を行い、午後8時過ぎに家を出発。
お父様、お母様、サシャに見送られ、兄様と私は国の中心にある『ナイラ城』を目指したのでした。
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