1話(3)
「今回の件で明白になりましたが、王子フィルマンと国王ギュータスは自己中心的な人間。自身を最優先で、他者の事など何一つ考えてはいません」
「…………。そうですね……」
「そんな者達が頂点に立ち続けていたら、我が家(いえ)にいつ火の粉が降りかかるか分からない。そこでこの件を失脚のチャンスと見て、結果的にそれを目指していらっしゃる殿下の支援を行ったのですよ」
な、なるほど。敵の敵は味方。偶然目的が一緒になったから、動いてくれてたんだ。
「いずれこんな日が来るだろうと、国内外に思惑を臭わせておいて正解でした。尤も殿下は、それがなくとも妹君の有事には――おっと、それに触れるのは無粋ですね。とにかく他意がある行動ですので、お気になさらないでください」
レーフェル公爵は自身の言葉を遮り、私達に向かって丁寧に一礼。「フィルマンの逆恨みが怖いので、一家揃ってジェナに――殿下が用意してくださったお屋敷に避難しておきます」と伝えて去っていた。
……オーギュスト・レーフェル公爵……。『いつも明るく裏表のない御方』として有名なのだけど、実態は全然違う。ものすごく頭が切れて、滅茶苦茶肝が据わってる人だ。
だって。『怖いから避難』と口にしていたのに、休暇を楽しむような素振りを見せていたから……。
「さて、と。僕達も動くとしよう。ここの入り口に、馬車を停めてあるんだ」
なんとも言えない気分になっていたら、同じく見送っていた兄様が歩き出した。
そうして私達は薄暗い空間から抜け出し、陽の光を感じていたら――。ふと眠気がやってきて、意思とは関係なく瞼が下がってきた。
「……ぁれ? 目が……。言うことを、聞いてくれない……?」
「ずっと、気を張っていた影響だろうね。これからはずっと、僕が傍にいる。安心して眠るといいよ」
「…………兄様……。そう、します……。ありがとう、ございます……」
傍に居てくれること。そして、助けてくれたこと。
私は改めてその二つのお礼を伝えて、もう限界。久しぶりに会った人の胸に顔を添え、眠りの世界に落ちていったのでした――。
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