1話(2)


「リーズと会う時は変装をしていたから、気付かなかったよね。これが、僕の本当の姿なんだよ」


 ポカンとしていると兄様は苦笑して、ちょっとした変身が始まった。

 まずはやや大きめの眼鏡(めがね)を外し、それを合図にして目の大きさがやや細くなる。次はシルバーグレーの髪の毛を真上に引っ張って、その下から――ウィッグの下から、肩にかかるくらいの長さで毛先に若干の癖がある銀髪が出てくる。

 そうしたら全く別の印象を受ける男の人になって、確かにそうだ。遠くからだけど一回だけ目にしたことがある、ディオン・クノアス王太子殿下になった。


「頻繁に会ってたのに、全然気が付きませんでした……。兄様と思っていた人が他国の王族で、殿下だったなんて……。夢を見てるみたいです……」

「正体を明かされた時は、流石のオレも一驚を喫しましたね。しかしながら、衝撃的な発表はまだ終わりではありませんよ?」


 レーフェル公爵が、イタズラぽっぽく喉を鳴らす。

 え? まだあるの? な、なに……?


「実はね、リーズ。君も、他国の王族。僕達は血の繋がった兄妹で、君はジェナの第一王女なんだよ」

「………………………は、ははは……。仰る通り、衝撃的な発表はまだ終わってませんでしたね……」


 今回の発表が一番強烈で、乾いた笑い声を零すことしかできなかった。

 私が、第一王女? 兄様とは義理の兄妹じゃなくて、私も王族だった?


「その話については、性質上外では出来ないんだ。これから一度、屋敷に戻る――今朝までリーズが暮らしていたライヤル邸に戻るから、そこで詳説するね」


 兄様がそっと頭を撫でてくれて、ひょい。ゆっくりと両膝の裏と右脇の下に手が差し込まれ、私はお姫様抱っこをされる。

 今の姿も立場もずっと知っていた兄様とは違っているけれど、無条件で安心できちゃう温かさと爽やかな匂いは同じ。だから不思議と動揺とかはスゥっとなくなっていって、気が付いたら鼓動の速度達も普段通りになっていた。


「オレの仕事はここで終わり、とりあえずはお役御免ですね。その後の王太子達についてのアレコレは、陰ながら応援しております」

「レーフェル卿、ご協力を感謝致します。貴方の御力添えがなければ、ここまで円滑には行動できませんでした」


 今起きている問題はこの国・ナイラの問題なので、王族であっても隣国の人間はすぐに介入できない。こうして助けられたのはレーフェル公爵あってのものだから、私も兄様と一緒に頭を下げた。


「お手を貸してくださり、本当にありがとうございます。このご恩は、一生忘れません」

「いえいえ、即忘れてくださって結構ですよ。行動理由の大半は、打算ですからね」


 気さくだったレーフェル公爵の瞳に、濃い狡猾な色が表れた。

 えっ? 打算っ?


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