1話(1)
「……え? はぇ……っ!?」
ぼんやりと声の発生源を見た私は、その瞬間に目を見開くことになった。
なぜならそこにいたのは、シルバーグレー髪を腰まで伸ばした眉目秀麗な男性。この人は8つ離れた私の実兄、ユーグ兄様なのだから。
「にい、さま……? どうして、ここに……? それに、いつお戻りになられたのですか……?」
ユーグ兄様は8歳の頃に隣国・ジェナに留学したあとそちらで仕事に就いていて、いつも大忙し。最近は特に忙しくなっていて、3か月以上も会えていない――次に顔を見せにきてくれるのは来週のはずだし、そもそも家族は看守が同行していても立ち入れないようにされている。
なのになぜたった独りで目の前にいて、しかも牢屋の鍵を開けてくれてるの……?
「後者の答えは、リーズが投獄されたと聞いて大急ぎで戻ってきたから。前者の答えは、あちらの方が協力してくださったからだよ」
「あちらの、方……? どなたが――っっっ!?」
兄様が一瞥した後方を見て、私はもう一度声にならない声をあげてしまう。
だ、だって……。コツコツと靴音を立てて現れたのは、オーギュスト・レーフェル公爵。両親が健在にもかかわらず僅か二十八歳で当主を務めている、国内で3本の指に入る有力者であり有名人だったのだから。
「この施設は土地的な意味でオレが干渉しやすく、御相談を受けて手回しをさせていただきました。看守達には話を付けていますので、心配は要りませんよ」
「そ、そうだったのですね……。公爵閣下が――あれ? 『御相談を受けて』……?」
兄様と私は伯爵家の子供で、あちらは公爵家の当主。『格』に激しい差があるのに、逆のような言葉遣いをされている。
本来なら私達がそうしないといけない立場なのに、どうなっているの……?
「その理由を耳にしたら、口から心臓が飛び出し兼ねません。何を聞いても驚かないように、構えていてくださいね?」
「は、はい。…………準備は、できました。お願いします」
深呼吸を3回行い、何を聞いても驚かないようにした。
一体……。何を、明かされるの……?
「こちらにいらっしゃるのは、ユーグ・ライヤル殿。今年で25歳となった、伯爵家の嫡男ですね?」
「そ、そうです。その通りです」
「ところがその地位その名は、全て偽りのもの。この方の本来の名は、ディオン・クノアス。隣国ジェナの、王太子殿下なのですよ」
「……………………。…………………………」
レーフェル公爵の言葉を聞いた私は、ただただ兄様を見つめる。
これはビックリしないように構えていたから、ではなくって。そういう反応すら出来ない大きさのものだったから。
兄様が、隣国の王太子……? 伯爵家じゃなくて、王家の人……?
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