第2話 ふと空を仰げば……
緩やかな勾配をゆっくりと走りながら辺りを見回す。
あれから一時間ほどが経過した。効率よく捜索に当たるため奏介と二手に分かれたものの、未だにヤマトは見つけられずにいた。時間的にそこまで遠い場所に行ってはいないはずだが、こんな人口三千人弱の小さな町でもそれなりの広さがある。田や畑なども多数存在しており、もし農作物の陰などに隠れられたりでもしたら発見はほぼ不可能に等しいだろう。
「マジでどこにいるんだ……?」
そう口に出した声は若干過呼吸気味。
ずっと走りっぱなしだったのでさすがに肺が苦しく、足にも疲れが回ってきていた。
これ以上無理をする訳にも行かず、一旦休憩を取ろうと近くのベンチに腰を下ろす。
皐月ちゃんや奏介から何か連絡が入っていないかとポケットからスマホを取り出す。
「……何もなし、か」
向こうも向こうでそれなりに手間取っているらしい。
……やっぱり、そう簡単に見つかるはずもないか。
全身の疲労を和らげようと大きく深呼吸をとり、そして空を見上げる。
一面鉛を張ったような曇り空。今にも雨が降り出しそうな空模様だった。
一応天気予報の確認をしようとアプリを開く。けれど雨のマークはついておらず、あと一時間もすればこの天気も回復するらしいとのことだった。
「まあ大丈夫ってことか。……って、ん?」
流れるように画面をスワイプしてニュースの欄に入ったところで、とある記事の見出しが目に入った。
『未確認飛行物体現る⁉』
まあこういうのたまにあるよなってのが正直なところ第一印象だった。
読者を引きたいが為にわざと大々的な書き方を取る。それが奴らの常套手段だ。
そんなことは百も承知。なのにそれでも興味を持ってしまうのはやはり人間の悲しき性なのだろうか。
気がつけば俺はその記事をタップしようと手を伸ばしていた。
と、そこでニャーという鳴き声が聞こえてくる。
「ちょっと待って、この記事読むだけだから」
しかし鳴き声は止まず、ニャー、ニャーと何度も繰り返される。
「待って、少しだけだから」
ニャー、ニャー、ニャー。
「だからすぐ読み終わるから! ……ん、ニャー?」
スマホから視線を外し鳴き声のする方を向いてみると、そこにはキジトラ猫――ヤマトがニャーと鳴いていた。
「って、いたぁー!」
こんなにあっさり見つかるとは、さっきまでの苦労は一体何だったのだろうか。
だがしかし、俺の大声に反応してヤマトは逃げ出していく。
「あ、っちょ、待て!」
そうして俺はヤマトを見失わぬよう必死に追いかけていった。
そして十分後。
「……いない」
ヤマトの後を追いかけたものの結局捕まえることは叶わず、ましてや見失ってしまった。
つまりまた振り出しに戻ってしまったという訳だ。
やはり猫が本気を出せば人間の足では到底敵わないという事実を思い知らされる。
そしてもう一つ問題があった。それは——
「……ここ、どこだ?」
辺りを見渡す。一面に広がるのは草木。そこは見知らぬ空き地だった。
どうやらヤマトを追いかけるうちにあまり馴染みのない場所までやって来てしまったらしい。
「迷子とかついてないな」
自嘲気味に鼻で笑う。
だがまあそこまで複雑に入り組んだ町ではないので戻ることは恐らく容易い。けれどこんな場所で引き続き探し、これ以上自分の居場所を分かりにくくするのは得策ではないだろう。もし戻れなくなったら元も子がないしな。
心苦しいが、今日のところは一旦引き上げて帰るとしよう。
空もだんだんと茜色に染まりつつあることだし。
…………ん?
と、空を見上げていた俺はそこでふと気づく。
「……何だあれ?」
空の上に何かが見える。
それは一瞬星かとも思ったが、こんな時間に星がはっきりと見えるはずもない。
じゃああれは一体何なんだと不思議に思う中、それは次第に大きくなり、そしてこちらに向かって落ちていると気づいた時にはもうすでに手遅れだった。
それは俺の数メートル先で落下する。
その衝撃波で俺は吹き飛ばされ、背中を強打する。どうやら木に打ちつけられたらしい。
意識がだんだん朦朧となっていき、視界に薄い膜が掛かる。
だがそれに抗うように、俺は閉じかかったまぶたで何が落ちてきたのかを視認する。
「…………⁉」
それは卵のような形をした全長二メートルほどの物体で、およそこの地球上のものでないのは明らかだった。
と、その物体の扉のようなものが機械的な音を立ててゆっくりと開き、そしてそこから誰かが現れる。
…………女の子?
けれどそこでどうやら限界がやって来たらしく、俺の意識はみるみる遠のき、やがて零れ落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます