第5話 初めての帰り道

 ついに来てしまいました放課後……


 現在ボクは、昇降口の近くで一人佇んでいた。


 一緒に帰る相手である天使さんはというと


『ごめん!生徒会に提出しないといけない書類があるから、先に昇降口で待ってて!』


との連絡がきており、現在の状況に至っている。


 それにしても、クラス委員長でありながら生徒会の仕事も手伝っているなんてすごいなぁ。ボクも彼女のようになれれば、自分自身に自信を持てるのかな?


 時折近くを通る生徒からの目に怯えてしまっている自分とみんなの前に出ても堂々とし、キラキラと輝いている彼女の姿とを比べて考えてしまう。


 すると走ってくる足音が聞こえ、


「月野君、待った!?」


 声をあげながら天使さんが走ってきていた。

 ってあまり大きな声で呼ばないでください?!注目集めちゃうから!


「ふぅ。私から誘っておいて待たせちゃってごめんね」


「ぜ、全然待ってないですよ」


「本当に?」


「本当です」


 実際いつもより遅く教室から出て、昇降口まで行くのものんびり歩いてきたから、待っていた時間はせいぜい5分くらいだからそんなに待ってはいない。


「…………」


「ど、どうしました?」


 何故か黙っている天使さん。

 もしかして、ボクなにか間違った対応しちゃった?誰かと待ち合わせするなんて経験ほとんどないから良くない対応だったのかも?!


「いや、なんか今のやり取り、デートみたいだなって」


「ででででデートッ??!!」


 急に顔が熱くなるのを感じる。


 デートって、ボクと、天使さんが?!ないないないない!ボクでは釣り合わなさすぎるし、第一ボクたちは同性だからそんな、デートなんて……あ、天使さんはボクが女ってことは知らないから成立してしまう?だとしても、ボクなんかとデートって?!


「あ、あはは……コホンッ、とりあえず帰ろっか」


「そ、そうですね」


 言った本人である天使さんも恥ずかしかったのか、互いに顔を赤らめながら、一緒に学校から出た。


*****


「へぇ~。月野君って電車で来てるんだ。ということは学校から家まで結構距離があるの?」


「はい、ここから東方面に6駅先の場所です。天使さんは?」


「私はここから割と近いところに住んでる」


 天使さんと他愛のない会話をしつつ、駅までの道を歩く。基本的に天使さんの方から話題を振ってくれるおかげで、気まずい沈黙が訪れることなく会話できていた。

 会話が下手なボクからすると大変ありがたいことなのだ。


「こうして話してみると、お互い知らないことの方が多いね」


「そうですね」


「まあ、これから知っていけばいっか」


「そう……ですね」


 こうして一緒に帰って、知ろうとしてくれて、改めて思う。



 なぜ彼女はここまでボクと関わろうとしてくれるのだろうか。



 自分から積極的に話しかけることができず、最近の流行りなんてものも分からない。入学当初は話しかけてくれた人もいたけど、会話が続かず、すぐに気まずくなってしまい、1週間が経つ頃には、ボクに話しかける人は誰もいなくなった。


 けど入学して半月が経った時、彼女が話しかけてきてくれた。それからも、どんなに気まずくなっても話しかけくれた。


 彼女がいなければ、今のように楽しく学校生活を送ることなんてできなかった。

 だからこそ、不思議だった。


「天使さんは、どうしてボクと関わろうとしてくれるんですか?」


 はっ!今ボクなんて言った?!


 普段であれば口にしないはずなのに?!これじゃあ、関わられることを嫌がってると勘違いされてしまうんじゃ……


「どうして、か」


「いや、あの、今のは……」


「きっかけは君と初めて会った時かな」


「初めて会った時……」


 一緒に帰ることとなったそもそもの発端。

 ボクからしたら、自身と天使さんとを結びつけることとなった始まり。そして、何が隠れているか分からない爆弾のようなもの。


「その時、君がどんな人なのか興味を持ったの。他の男の人とは違う感じがしたから」


「違う感じ、ですか?」


「うん。いままで会った男の人からは、あからさま下心だったり、嫉妬や羨望なんかを感じたけど、君からはあまり感じなかったな、ふふっ」


 何かを思い出しているのか、天使さんは柔らく微笑みながら語ってくれた。


 ボクは、複雑な気持ちになった。


 だって、ボクは本当は女だから。

 ボクから、今までの男の人と同じものを感じなかったのは、そもそも男ではないから。


 そして、ボクを他の男の人とは違うと興味を持ってくれた天使さんのことを騙しているという事実に胸が痛む。

 もし騙していることがバレたら、失望されるのかな。そしたら、今度こそ立ち直れないかもしれない。

 ここで打ち明けた方がいいのかな。


「それじゃあ、ボクと初めて会った時、何があったんですか?」


 ただ、本当のことを打ち明ける勇気など、ボクにはあるはずがない。

 結局、今回の本題ではあるものの、話題を変えて逃げてしまった。


「うーん。それはまだ内緒」


「え?」


「それより!変な空気になっちゃったから気分転換しよう!ほらこっち」


 暗い雰囲気を晴らすかのように、または話題を変えるかのように、天使さんは明るく声をあげ、ボクの手を引いた。


「そっちは駅とは違う方向なのですが?」


「ほら、せっかく一緒に帰るんだから寄り道しようよ。時間は大丈夫?」


「時間は大丈夫ですけど、家族には連絡しないと」


「それじゃあご家族に連絡をしてから行こう!」


「わ、分かりました!」


 スマホを取り出し、妹達とのグループチャットに今日は帰りが遅くなることと、夕飯は作り置きを温めて食べることを伝えた。

 彼女達はまだ学校にいるから返信は返ってこないけど。


「できました」


「よし、レッツゴー寄り道!!」


 いつもよりもどこかテンション高めの天使さんに手を引かれながら、友達との初めての寄り道をするのだった。


 そう、初めての……って待って?!友達との寄り道って具体的になにをするの?!雪と吹雪以外の人と外で遊ぶだなんて初めてだから分かんないよ!


 それにしても、高校1年生にして初めての体験が多いなボク。


*****


「着いた、ここだよ月野君」


 天使さんに連れられてやってきたのは、ゲームセンターだった。


 よかった。ゲームセンターなら何度か雪と吹雪と一緒に来たことあるから、なんとなくは分かる!!


「さて何をしようか?月野君は何かやりたいものある?」


「ふえっ?!」


 やばい。来たことはあるけど、基本的に二人がやっているのを後ろで見守ってるだけで、やったことあるのは、写真を撮るやつだけ。つまりなにがあるか分からない!


「実はボク、あまりゲームセンターに来たことが無くて」


「えっ、そうなの?!」


「は、はい」


「意外だなぁ。男子ってこういうところよく来てそうなのに」


「ははは。あ、天使さんはよく来るんですか?」


「私?最近は来てないけど、中学生のころは汐音と朱莉ちゃんと一緒に来てたよ」


 天使の花園の三人で来てたのか。むしろ三人の中では棗さん以外はこういうところに来るイメージがない。


「それじゃあ……あっ!あれやろうよ」


 そう言って天使さんが指をさしていたのは、有名なレースゲームのアーケード版だった。


 これって、よく雪と吹雪が競ってたやつ、だよね。ゲームセンターに来たときは毎回やってたし。ただ、何か賭けているのか、二人共真剣勝負でやっているので、ボクは遠くで仲がいいなぁーと見守っていた記憶がある。


「どう?」


「はい!やったことないですけど、やってみたいです」


「なるほど今回が初運転か、よし決定!」


 初めての友達とのゲームセンターはレースゲームに決まった。

 お金をいれ、椅子に座る。


「ここのアクセルを踏みながら、このハンドルで操作して、アイテムはハンドルの真ん中のボタンで使うんだよ」


「はい!分かりました!」


 初心者のボクに対して天使さんは操作説明をしてくれた。


「嬉しそうだね?」


「そ、そうでしょうか?」


 わ~~!!どんな感じなんだろ~!楽しみ!!

 実は内心わくわくである。


 キャラクターとカートを選び、レースのスタート画面になる。そして、カウントダウンが始まりレースがスタートする。


 他のキャラクターが一斉にスタートする中、ボクのキャラクターだけ爆発していた。なんで?!


「このゲーム最初にアクセル全開だと爆発しちゃうんだよー」


「先に言ってくださいよ!」


「ふははは。ゲームに情けは無用なのだよ月野君」


 ノリノリでプレイしている天使さんは……1位?!しかも、独走状態。


「天使さん速すぎません?!」


「私の得意なゲームだからね。このゲームでは、汐音にも朱莉ちゃんにも負けたことないんだよ」


 結局そのまま、天使さんは独走して1位。ボクは最後、良いアイテムが続いたおかげで4位という結果になった。


「大勝利!どうだった月野君、初めての運転は?」


「操作は難しかったけどいろいろなアイテムの使い方やアクセルのしかたがあってすごくおもしろかったです!」


 またやってみたいなー。今度雪と吹雪を誘ってやってみようかな。


「楽しんでもらえてよかった。よしまだ時間はあるし、他のゲームでも遊んでみよ!」


「はい!」


 ボクと天使さんの寄り道はまだ続く。

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