微風と星と古びた若葉

ほしくい

プロローグ

 彼はバイクの運転中に喋り出す。


「昔はこの星も煩かった。静かな場所なんて森か海の上だけだったよ」


 幾多の瓦礫が積まれた都市を背景に語りだす。

 隣のサイドカーに乗る私は合図地を打ち残骸を眺めた。

 崩れた建材と剥き出しの鉄骨。幾何学きかがく的な配置の柱だけの広場。無数の透明なガラスがドミノ倒しの様に重なる山……。遥か前方には空をも貫けそうな塔がそびえる。

 地平線を辿っても塔の根元は霞み。視線を上げても天辺など空の蒼に溶けていた。

 私はそんな白線を見上げたまま隣の運転手の彼へ問う。


「ねぇマドラ。昔ってどんなだったの?」


 今や草木に浸食され、誰かの痕跡も面影も緑へ薄れ行く世界。

 温かな陽気と心地よい風に眠気を嚙み殺す彼も一瞬だけあの塔を見た。

 数秒と沈黙の後に彼の答えは至極適当だった。


「人がうじゃうじゃ暮らしてて煩い場所だった……」

「答えになってない」

「これが俺の答え。だがあの歴史ころは……飽きる事は無かったよ」


 皺だらけの樹木の皮膚が薄っすらとしなる。それは微笑みだったと思う。

 私は人間を知らない。だけどこの蔦と根の薄茶色の隣人が……。


 人間ヒトらしいと思えた。

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微風と星と古びた若葉 ほしくい @hosikui

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