第11話
何度目だろうか、もう覚えてない、もう思い出したくもない、そんな事を考えていると彼女に起こされた。
「棗くん、起きて、相変わらず寝坊助さんだなぁ」
そんな彼女の声で、僕はゆっくりと目蓋開いた。しかし、そこには心配そうな顔ではなくボロボロと涙を溢した辛そうな顔をした彼女がいた。僕はどうしたらいいのか分からず起き上がり、彼女を抱き締めて背中を擦ることしかできなかった。少しすると彼女は僕から離れて涙を拭くとゆっくりと話し始めた、
「もう、もう時間を巻き戻すのをやめて」
僕は耳を疑った、彼女は知っていたのだ、時間を戻していたことを。僕が黙っていると、彼女は身に付けているマタニティワンピースの裾をたくしあげて足を見せた、その足は火傷の跡や擦り傷が刻まれていた。
「あの、ね、この傷、足だけじゃないの、お腹にも傷があるの」
震えたような声色で彼女は言った、僕は、彼女を救おうとしていたはずが、傷付けていただなんて、
「私、もういいの、これ以上棗君に傷ついてほしくない」
彼女は僕に抱きついて泣いた、僕はただただ彼女の背中を擦りながら、謝った、何度も何度も、
ピンポーンとインターホンが鳴った、僕と彼女は戸を開けることを躊躇っていると、扉の取っ手のガチャガチャという音が聞こえた。僕は仕方なく寝室を出て玄関に向かった、鍵を開け扉を開けた、そこには少年が立っていた。
「やっと開けてくれたね、おじさん」
少年はニヒルに笑うと、靴を脱いで寝室へ入って行った、僕は慌てて少年の後に続き寝室へ向かった。
ベッドに腰を掛けていた彼女は一瞬驚いた表情をしたが、察しがついたのか優しく微笑んだ。
「君が、時間を巻き戻していたんだね」
少年はわざとらしく肩をすくめ、両手の平を上に向けた。すると、彼女はふっと笑い、
「惚けなくてもいいの、君には感謝しているんだから」
彼女はベッドから離れ、ゆっくりと少年に近づく、
「感謝?助かってもいないのに?」
少年は苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「それでも、感謝してるの」
と言って少年の手を優しく包み込んで握った。少年は、困ったような顔をして僕の方を見てきた。年相応な子供らしい表情で
「このおばさん、おかしいよ」
なんて言うもんだから、僕は自然と少年の頭を撫でていた、少年は少し不満そうな顔をしていた。
「何で、おばさんは時間が巻き戻っていることを知ってるの?」
彼女は一つ息をつくと話し始めた。
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