第10話

今回も駄目だった、どうすればいい、どうすれば彼女を死なせずに済む。僕はまた河川敷に走った、戻らなきゃ、戻って。

僕は、僕では彼女を救うことができないのか。草をかき分け懐中時計を探した。

「また駄目だったんだね」

頭上から声が聞こえた、あのときの少年だ。少年は、僕に背を向けて

「おじさんは、運命って信じる?」

と聞いてきた。僕が反応する前に少年は続けた、

「おじさんがおじさんの奥さんと出会ったのも運命だよね、ならさ、死に別れるのも運命なんだと思うよ。」

僕は、少年の言葉を聞いていて胸が苦しくなった。

「運命って、運命って何だよ、何で善人の彼女が死ななきゃならないんだ。」

僕は泣きながら弱々しい声で言った。

「僕もよく分からないや、でもね、田代 奏が9月18日の16時37分に死ぬ運命には抗えないんだよ。」

少年は俯きがちにそう答えた。

「善人だろうと悪人だろうと関係ないんだよ、死ぬときは死ぬんだから」

少年は、更にそう付け加えた。

「じゃあ彼女を救うことは「できないよ」

僕が言おうとしたことに少年は食いぎみに答えてきた。

「ねえ、最後にもう一度だけ9月18日に戻る?」

少年は僕の顔を覗き込んで言った。僕は少年の服にしがみつき泣いた、自分でも情けないと思った。

「戻ったところでどうするんだ、彼女は死ぬんだろ。僕は、僕は彼女を死なせないために戻っていたのに」

少年は、僕を哀れみの目で見下ろしながら懐中時計をいじっていた。戻すつもりなのだろう、9月18日に、

僕はまた激しい光に襲われた。

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