第8話
目を覚ますと病院のベッドで眠っていた。近くにいた看護士が、
「目を覚まされたのですね。傷口が完全に塞がったわけではないので安静にしてください」
と言った。
僕はいまいち現状を理解できなかったが、すぐにあの後の事が気になった。
「一緒にいた妻は、妻も無事なんですよね?」
僕がそう言うと。看護士は目をそらして
「お腹の子は少し早いですが無事救出出来ましたが、残念ながら奥様はもう」
と声を落として言った。
まただ、また駄目だった。彼女を守れなかった。僕は、あの河川敷に向かう為にベッドから起き上がった。看護士に止められたが、点滴を無理やり抜き取り病院から出た。走る度に腹部が激しく痛むがそんな事は気にしてはいられない。
河川敷に着くと懐中時計を必死に探した。前回のようにポケットも探したが見つからなかった。なぜ、僕が助かって彼女が死ななきゃならない。僕は悔しくて悔しくて堪らなかった。同時に、悲しく仕方なかった。僕は草むらの中で膝から崩れ落ち泣きじゃくっていた。そのとき、僕の前に突然影が現れた。僕は少し顔をあげるとそこには、黒いキャップにパーカーのフードを被った少年がにっこりと笑って立っていた。少年は、パーカーのポケットに手を突っ込み
「ねぇ、おじさんが探しているのってこれ?」
とポケットから懐中時計を取り出した。僕は目を見開いていると、少年は
「おじさんが僕の質問に正確に答えてくれたらこの懐中時計あげる」
と言った。僕は少年の質問に答えることにした。少年はにっこりとした笑顔のまま僕に質問をしてきた。
「まず一つ目の質問ね、おじさんは何で懐中時計を探していたの?」
僕はこの質問にどう答えればいいのか分からなかった。自分の物でもない物を探しているだなんて可笑しいからだ。僕がだんまりを決め込むと少年は不機嫌そうにした。
「あれ?答えてくれないの?じゃあ二つ目の質問、この懐中時計、使ったことある?」
少年の質問を聞く限り、僕に起きていることを知っているようだ。僕は
「懐中時計を使うって、どういうこと」
言った。すると少年は
「ふーん、あくまで白を切るんだ。」
と言った。そして、
「三つ目の質問、何でお腹の子は無事なのに懐中時計を使おうとしているの?」
と言った。やはり少年は全て知った上で質問している。そして、少年の質問の通り僕はお腹の子は無事だったのに、過去に戻ろうとしている。お腹の子が大切な気持ちはもちろんあるが、それよりも彼女が生きていないことの方が何倍も辛い。僕は、少年にぽつりぽつりと事の顛末を話すことにした。
「ごめん、君の言う通り懐中時計を使おうとした。けど、それは、彼女が居なきゃ意味がないからだよ。自分の子が無事だったってことはもちろん嬉しいことだけど、そこに彼女も居ないと」
僕は言い終わる前に涙をボロボロと落とした。
「まあ何でもいいや、貸してあげる。」
と少年は言った、そして懐中時計を投げてきた。僕が驚いていると少年は
「泣かせちゃったお詫びだよ、僕もそこまで鬼じゃないから」
と言って、キャップを深く被って何処かへ消えていった。
僕は懐中時計を握り、4回目の9月18日を迎えようとしている。
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