第47話 間違えた
この村に網を張ってた、と言うことは、他の街や村など、ジルが来る可能性があると思われる場所にも捜索範囲を広げていたって事だろう。
それ程の人物……ジルはそれ程必要な存在だという事だったのか……?
王都にいる神官は、例え下っ端の奴等でも村や街にいる神官とは訳が違う。優秀であり、そして必ず貴族だ。皆何かしらの爵位を持っている。
だから平民を見下すし、無下に扱う。これが神に仕える者なのかと思ってしまうが、この国はそうなのだ。だから金の無い平民は神殿に近寄る事すら躊躇われる程だ。
それ故に神官達はプライド高い。無茶苦茶高い。そんなプライドの高い神官が誰かの指示で動くとなれば、大神官かそれ以上の者……国王陛下……?!
いや、まだこれは仮説に過ぎない。ジルがそんなに重要人物だったと言う事か? 確かにあれ程の魔力を持ち、魔術を扱える者であれば取り込みたいと躍起になるのは分かる。ジルはそれ程の力を持っていた。
ではなぜ神官が来る?
神殿は神を崇め奉る。それは聖なるモノとされているからだ。だから瘴気を祓い、この地を浄化させる力を持つ聖女は神殿の管轄だ。しかしヴィヴィは神殿にはおらず、あの搭にずっといた。俺が知る限り、神官が出入りしたという事は無かった筈だ。
聖女を神官は放置していた……?
いや、それはあり得ない。神殿は一番に聖女を保護し、護るべき存在である筈なのだ。何故この事に今まで気付かなかったのか……!
何かがおかしい。ちゃんと状況を整理しなければ。
ジルは王都から逃げ出してきた。きっと何処かで良いように使われていたのだろう。
ジルを連れて行ったのは王都の神官。であれば、ジルは神殿に囚われていたか、神官達に使われていた、と考えられる。
ジルは聖魔法と言われる回復魔法を使えていた。それも物を復元する事もできる、かなり高位の回復魔法だ。だから神殿で捕らわれたか? そこで使われてきていたか?
しかし、それであれば神殿で貴族相手に治癒をさせていたのではと容易に答えは行き着く。あれだけの魔法を使えるのであれば、高位の貴族であれば、病気や怪我を治して貰おうとするだろうし、神官達も隠しだてすることなく高額の寄付金を集う等して、ジルを良いように利用する筈だと考えられる。
だが、そんな噂は聞いたことがない。
俺も曲がりなりにも貴族だ。しかも家は高位の存在である侯爵だ。勿論、爵位を継ぐことはないが、貴族としての情報は嫌でも入ってくる。しかもレーディン家は情報を得ることに長けている。それは強力な暗部組織を抱えている事からも分かる。
そんな事から、俺が知らないのであれば、そのような事実は無い、という事なのだ。
ではジルはなぜ神官に捕らえられた?
まさかジルは……
いや、そんな事はない。そんな筈は……
ジルは男だ。……確かに中性的な顔立ちをしている。髪が長ければ女性と見られる事もあるかも知れないが……
この国の女性は皆、髪を長くしている。それが女性の在り方であり、礼儀とされているからだ。
だから平民であったとしても、女性であれば皆が髪を長くしていて、病気や事故等、余程の事がない限り髪を短くするなんて事はないのだ。
だから俺も初めて会った時に、髪が短いジルを惑うことなく男だと思った。声も掠れて低くて、女性の声とは思えなかったのもあったし、食欲が旺盛だったのもあってだ。
だがそれが間違いであったとしたら……?
いや、それでもこれは無茶な考えではないか?
ジルが女性であり、そして……聖女だったという事はあり得ない事ではないのか?
あの時……村から助けだし、俺の馬に共に乗ったのは聖女……それはジルだったのか?
今も顔は思い出せない。しかし、幼かったあの子の無邪気さはジルを思い出させる。俺をリーンだと知っていた。騎士団の一部の者から俺はリーンと呼ばれていたから、あの時に聞いた、と言う事なのか?
そう言えばジルは、俺に何度も助けて貰ったと言ってなかったか? それはあの時の事を言っていたのか?
考えれば考える程に、ジルが聖女なのではないかという答えに向かっていく。が、まだそれを決定付けるのは早計だ。簡単に答えを出してはいけない。
しかしそうであればジルは、やはり重要人物となる。と考えて、この言葉を前にも使った事があった事に気づく。
それは俺の両親の元にいた、王城地下に捕らえられていた子の事を言った時だ。
両親が捕らえられ拷問され、そして殺されたのは助け出した子が重要人物だったからなのかと、その時に思ったのだ。
ジルは王城に囚われていた子だと言うのか?
しかしなぜそんな所に? 聖女であれば神殿で護られているのではないのか?
そう考えてから、この考え自体が全て間違っているのではないか、とも思えてくる。
ジルは男で高位の魔術師で、目をつけた神官が捕らえに来た。という単純な答えかも知れない。
何にせよ、捕らえられたのだとすればジルは今、王都にいる事になる。相手は神官だ。神殿だ。もしかしたら国王だ。
簡単に助け出せるとは思えないが、とにかく調べなければ。ジルの事を知っていかなければ。
ジル、何があった?
今までどんなふうに生きてきた?
今、何処にいる?
手を離してしまった事が悔やまれてならない。あの時はそれが最善だと、俺は信じて疑わなかったんだ。
色んな可能性を考えて行動しなくてはならなかったのに。
俺はまた間違えてしまったのだ。
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