第12話 欲しい物
ジルと一緒に買い物へ行く。
何が欲しいのかと聞いても、ジルはやっぱり教えてくれなかった。
あちこちキョロキョロと店を見つけようと視線を動かすジルの様子を微笑ましく見ながら、二人でゆっくりと街を歩いていく。
そうやってジルが見つけた店は、雑貨屋だった。そこはカフェも併設されていて、ジルに俺はそこで休んでおくように言われた。どうやら一人で物色したいらしい。
暫く一人でハーブティーを飲んでゆっくり寛いで、遠目にジルの様子を時々伺う。
欲しい物があると言った時に、俺はジルに金を持たせた。何が欲しいか分からなかったが、今まで食事以外で要求された事が無かったから、ジルに渡せる範囲の金額を渡してやった。でも多分、ジルはその金額がどれくらいのモノかは分かってはいないんだろうな。
しかし、遠目にだけどジルは何だか楽しそうで嬉しそうに見える。そんなに楽しいのなら、また今度買い物させてやろうか。
その様子を見て、つい顔が綻んでしまう。見ているだけで飽きない。ジルはいるだけで俺を癒してくれる存在なんだな。
時々確認するように俺の方を見る。何処にも行かないのに、って思いながら見てると、嬉しそうに手を振ってくる。マジでアイツは可愛い。
ジルと別れられなくなるのは俺の方かも知れない。そんな風に思えてくる。
暫くそうやっていて、やっとジルが買い物を済ませたのか此方へやって来た。
「結構時間掛かったな。良い買い物は出来
たか?」
「ん!」
「それは良かった。あぁ、ジルも何か頼めよ。ここはスイーツが美味しいらしいぞ?」
「すいーつ?」
「甘い食べ物だ。甘いのは嫌いか?」
「甘い、の……」
「食べた事がないのか?」
「ん……」
「じゃあ頼んでみよう。何でも経験しておくと良いだろうしな」
「ん!」
注文してから待っている間、ジルは余った金を返してきた。別にそのまま持っていてもいいのに。そう言っても、首を横に振って金を俺につき出す。ジルは無欲だ。何も求めようとしない。だから今回の事に少し驚いたが、嬉しくもあった。自分の欲求を示してくれた事が、気を許してくれていると感じたからだ。
こうやって俺にはなついてくれているが、ジルはまだ俺に隠している事がありそうだ。それは誰にでもあるのだろう。だから踏み込んではいけない所があるのも分かる。が、それが枷になっているのなら、少しでも払拭してやりたいと思っているのだが……
きっとジルは俺にそんな事を求めていないのだろう。それが少し歯痒くもある。ジルにとって、俺はまだ全てを委ねられる存在にはなっていない、という事なんだろうと考えられるからだ。
そんな事をグジグジ考えてる自分が何やら情けない。まだまだって事だな。俺も。
運ばれてきたパンケーキを見て、目をキラキラさせているジルに相変わらず絆される。
「リーン、これ、キレイ!」
「そうだな。パンケーキにクリームと果物にソースがかかっていて、彩りも綺麗だし美味しそうだな」
「ん! 食べて、良い?」
「勿論だ」
ワクワクした様子で、ひとしきりパンケーキの様子を色んな角度から見て、ジルはナイフとフォークを手にして緊張した面持ちでパンケーキを切っていく。
「リーン! これ、柔ら、かい!」
「ハハハ、それならジルでも難なく切れそうだな」
「ん!」
一口サイズに切れたパンケーキを、ゆっくりと口に運んでいく。噛み締めた途端、びっくりしたように俺を見て、何か言いたいのに味わうのにも一生懸命で、何度も無言で頷きながら訴えていた。
「これ! すごく、美味しい!」
「甘いの、気に入ったようだな」
「ん! すごい、こんな、食べ物、ある、なんて!」
「今まで食べさせて貰った事がなかったのか? ジルは王族だかに囲われていたんじゃないのか?」
「それ、は……」
「嫌な事を思い出させてしまったか。すまない」
「んーん……あの、もっと、食べて、良い?」
「俺は甘い物は苦手なんだ。だからそれは全部ジルのだぞ?」
「こんなに、美味しい、のに……」
不思議そうに俺を見て、でも俺が笑ってるのを見ると同じように笑って、またパンケーキを口にしていく。それは凄く幸せそうで、見ているこちらも嬉しくなってくる。気に入ったようで良かった。
満足したジルと共にカフェを出て、それからギルドにも寄ってみた。ここまで来るのに馬車を使ったから、道中魔物を倒すことがなく資金を得ることが出来なかったからだ。此処等で少しでも稼いでおいた方が良さそうだから、今日はどんな依頼があるかを確認だけでもしようと立ち寄る事にした。
この街のギルドは然程大きくはなく、カウンターの受付も一人のみだった。依頼書を張り付けてある掲示板も大きさはなく、依頼自体多くはなさそうに見える。まぁ、今の時間じゃ残っている依頼が少ないとも言えるが。
他にも伝達事項としての掲示板があり、街からと国からと、そして個人的な伝達等も張り出されていた。それをジルは見ていて、俺は依頼書を確認していた。
「依頼は良いのが無さそうだな。この時間じゃそうか……」
「リーン……リーンっ!」
「ん? どうした?」
「か、帰る……!」
「え?」
「早、く!」
「あ、あぁ、分かった」
俺の腕を両手で掴んで、ジルは何故か帰ると言い出した。
どうしたんだろう?
なにかあったのだろうか……
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