第3話 探しモノ
俺が探している物は、聖女の持ち物と行方不明になった子だ。
聖女が身につけた物には力が宿る。それは長年身に付けていればいる程、その力は大きなものとなる。
そんな事から、聖女が身に付けていた物は全て没収されてしまったそうだ。
聖女を見つけたのは今から10年程前。
俺は平民ながら魔力を持っていた。その事が村の教会で行われる魔力判定の儀式で判明してから、俺はすぐに侯爵家に有無を言わさず養子にされた。その後俺は、剣術の才能があると騎士団に入れられた。そしてそれは入団して数年経った頃の事だった。
魔力持ちでも然程大きな魔法を使えない俺に求められたのは、貴族としての恥じない立ち居振舞いと知識を得ること。そして剣を振るう才能があったと言うことで与えられた騎士職に励むこと。
通常子供には騎士としての仕事はさせないが、元は平民だ。俺を養子にする為に家族に支払った金、教育する為の金の元を取る為に、侯爵家は早々と俺を騎士職に就かせたのだ。
しかし、それは俺にとって好機だった。ダンスや食事マナー、淑女をエスコートする術、それから政治学を長時間習うより、剣を振るっていた方が断然性に合う。そうしている時だけが、自分でいられる時だと思えたものだ。
魔法で身体強化をし魔力を剣に纏わせて振るうと、呆気なく勝負がつく。気づけば騎士団の中には誰も俺に勝てる者はいなくなっていた。
そうなっていたのは俺が13歳になった頃。俺が貴族となってから5年の月日が流れた頃だった。
その頃には遠征に行くことも多くなっていた。俺は最年少ながら、遠征に行かせて貰える程の実力となっていたのだ。その遠征先からの帰りの途中にある村に立ち寄った時に見付けたのが聖女だった。
いや、聖女だけじゃない。他にも子供が何人も捕らえられていて、奴隷として売られるべく、孤児院とは名ばかりの施設に幽閉されていたのだ。
その村に立ち寄ったのは予定外の事だった。大雨に見舞われて目的地まで到達出来ずに急遽近くにあった村に助けを求めるように立ち寄ったのだが、だから村人達も突然の事で対応が遅れたのだろう。不審な対応をする村長の様子に気付き、村中を調べた事から見つける事ができた子供達。
今は奴隷制度は何処の国も廃止されている。それでもこうやって秘密裏に奴隷の売買は為されている。
ここはそういった者達の隠れ蓑となっている村だったのだ。
そこにいた5人の子供達の中に聖女はいた。
魔力を持つ者には、魔力を持つ者の存在が分かるもので、俺には助け出した子供達の中に魔力を持つ子供がいる事がすぐに分かった。
まだ5歳位の小さな子供で、灰色の髪はボサボサで全身薄汚れていて、所々生傷もあった。それは捕らわれていた子供達全員がそうだったが、その中でも特に幼いのが聖女だった。
奴隷にされるより良いと思って、俺はその子供に魔力がある事を上官に告げた。勿論、身元確認は怠らなかったが、幼い事もあって子供達の出自は分からず仕舞いだった。
そんな事から王城のある王都に連れて来られた聖女は、そこで俺と同じように貴族としての教育が施されていくのだと思っていた。奴隷として売られ、虐げられて生きざるを得ないよりも、よっぽど良い暮らしが出来る。
俺は鉱山の麓の小さな村の平民で、親は鍛冶職人だった。いつも親の手伝いとして、幼い頃から素材としての鉱物の採取をしに毎日のように母親と鉱山へ行っていた。鉱物を買い取るよりも自分で採取する方が金はかからないからだ。それでも自分達が食べられる物は充分じゃなく、いつも腹を空かせていた。
貧しい村なんかはどこもそんなものだ。
だから腹を空かせる心配もなく、酷い仕打ちに苦しむ事もない貴族としての暮らしは、この子にとって良い事だと思ったのだ。
汚れていてボロボロで臭いも酷く、髪もボサボサで殆ど顔の見えないこの子供達に、他の騎士達は近寄りたくもない様子だった。
騎士は基本的に皆が貴族だ。綺麗な服を纏い、身の回りの事は全て従者がしてくれていて、美味しい食事を当たり前のように摂ってきた貴族の令息達は、汚い下民には触れたくもなかったのだろう。
だから元平民である俺が子供達のフォローをした。しかしそれは仕事であって、そうする必要があったからだ。
聖女がその時身に付けていたのは、質素な首飾りと腕輪だった。出自を調べる時に、それも参考にする為に誰から貰った物かと聞いたら、聖女は嬉しそうに微笑んで母親からだと言った。そして、母親は何処か遠くに行ってしまったとも。
首飾りと腕輪は聖女にとって母親の形見だったのだ。
それらを取り上げられて、聖女は王城の北側にある塔に幽閉された状態だと、その後何年も経ってから聞いた。
俺は聖女から全てを奪う事に手を貸してしまったのだ。
そして、他の助けた子供達も奴隷の如く働かされている事を知った。
それが俺には耐えられない事だった。
この国はそんな事をするのか。それとも一部の卑しい者達の仕業なのか。もし国王が平然とこんな酷い事ができるのであれば、俺はこの国の為に働くなんて事は出来ないと思った。
助けたとばかり思っていたが、そうじゃない事実に憤りしかなかったのだ。
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