第三章 死神の到来!

 死神ってよくアニメや映画で見かけたり、言葉を聞いたりしたけれど実感したことってないですよね。空想の生き物だと思っておりました。

 しかし、死神は突然やってきて命どころか人生までも奪われる、12歳の初秋。

 

 明け方5時、熟睡とはいかないが物音に反応できるくらいに起きていた私は、ドアのノックの音で目が覚める。

 ドア越しの母の声

「ちょっと、入っていい?」

 返事を待たずにドアを開ける母。私は半ボケだったので返事が億劫だった。

「お父さんがね、死んじゃったの」

「?!」

 母の気力のない声に「夢なのか」と心でつぶやいた。

「起きれたら来て」

そういって、階段をそろりと降りていく気配。

私はもう一度寝ようとした。しかし、寝れない。夢なのだろうか、まさか冗談?エイプリルフールじゃないし、アニメの見過ぎだろうか。母の言葉を現実として受け入れられず、体が動かなかった。寝てもいられず、ゆっくりと階段を降りて仏様のある部屋を覗くと、父が布団に寝ているのではありませんか。しかも、白装束で。お腹の辺りには魔よけの刀が置いてあり、父の横で妹と母は泣いていました。

悪い夢なんだと部屋に戻りました。布団に潜り、何度も考えて、今一度、下に降りよう。

 降りると、やはり変わらぬ光景。父が目を覚ますことはありませんでした。

耳と鼻から出血が止まらず、まるで嘘のようで現実だとわかっていても受け入れることができませんでした。

 葬式当日、家からの出棺で大勢の人が家にやってきました。私は葬式で泣くことができませんでした。泣いてしまったら父が死んだことを受け入れてしまうことだと子ども心に思っていました。泣けるまでに何年もかかりました。というか、父の思い出話もできなくなり、知らないうちに心を閉ざしていきます。

 なんか、辛気臭い話になりましたけど、今はきちんと向き合って生きることに楽しみを見出しています。こうして、自伝的なことを書けるのも自分と向き合ってきたからだと思います。

 葬式、親戚や親しい友人などたくさんの方が葬式に来て父の最期を見送って頂きました。今思えば、それは父にとって幸せなことだったんじゃないかと思います。

 近所の人に母が抱きついて泣いていた光景を見て私は泣いちゃいけないと感じていましたし、これ以上悲しい気持ちが募ってしまったら何かが壊れてしまうのではとも感じていました。私だけが、泣くことをしなかった。それがいけなかったと気づくまでに随分と時間を要しました。

 父の死をきっかけに死について考えるようになりました。


 父の葬儀の後、修学旅行があり、参加するかしないかどうするかを考えていましたが、行った方がいいという大人の判断で気持ちの整理がつかぬまま、修学旅行に参加しました。

 生活が変わってしまうのはもちろん、学校でも親の死を経験しているのは私だけで、死ぬ=悲しい という感情が枝分かれしていない子どもにとっては単純だったから、それだけで教室の空気が重くなり、同級生は私にどう接していいのかわからず遠巻きに見ていたし、親し気にしても変な距離感があった。そんな同情さえうっとうしかった。だって、周りが何を思っても現実は変えられない。私の心に大きな穴が空いた虚無感しかなかった。現実を受け入れようとするだけで精いっぱいだった。

 死ぬって痛いんだろうか、苦しんだろうか。そんなことを考え始める。

父との最期の思い出は近くのデパートのゲーセンで遊んだこと。妹の世話をしていた母は忙しく、週末に一緒にいられる父が好きだった。だから、もっときちんといろんなことを教わっておけばよかった、こうすればよかったという後悔だけが胸を苦しめた。

 母が気晴らしに妹と水族館に連れて行ってくれた。小さい水族館だったけど、久しぶりに楽しかったと思う。けれど、父がいなくなり経済的にもかなり負担があったことは子どもの私にも容易にわかった。だから、妹と私に買ってくれたぬいぐるみが嬉しくて、でも、わがままで買ってくれた母に申し訳なくて、ぬいぐるみを抱きながら布団で泣いた。なんでこんなに悲しくてうれしいのか、感情のごちゃまぜで訳も無く勝手に涙が出てきた。何もできず、母に負担をかける子どもという立場を恨んで憎んだ。自分が無力だと実感した。

 ふわふわした中であっという間に小学校を卒業する日はやってくる。

 複雑で形容し難い感情をもったまま中学生になり、そして思春期はやってくる。消化しきれなかった未熟な感情を爆発させるまでにそんなに時間はかからなかった。父の死は私に不幸ばかりを与えていたと、己の境遇を恨んで恨んで憎みまくった。この時、初めて世の中にはどうにもならない理不尽があることに気が付く。成長しいろんなものを吸収していく多感な時期にはすごく刺激があった。わだかまる感情を吐き出せぬまま、新生活が始まる。

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