Let There Be Light終⑤シーテウス博士とスザンナ
まだ地球が宇宙保護区域に入っておらず、第三次世界大戦が始まるずいぶん前、地球に地球外宇宙船が不時着したが、公にはされなかった。なぜなら宇宙船はいわゆるUFOのようにわかりやすい形状ではなく、大きな隕石だと思われていたからだ。
調査の結果、実際には宇宙人が三体くっついていたことがわかった。くっついていた宇宙人はヒト型ではなく鉱物の形状をしていたため、最初は宇宙人だとわからなかった。不思議な鉱物の特性を調べていた研究者たちは、宇宙生物を解明するという目的のもと、生体実験を繰り返していった。宇宙生物は逃げることすらできなかった。
「シーテウス、君はあの宇宙人を見たことがあるかい?」
悪友グリースの一言から、私は宇宙人に会えることになった。
厳重に警戒された研究所の奥で、初めて宇宙人を見た。それは今までで一番興奮した時だった。宇宙生物と呼ぶのもどうかと思うほど地球とは別の生態系の彼らは、不思議な輝きを持っていた。
私はどうしても欲しくなり、グリースにお願いして一体譲ってもらった。話したかった。彼ら自身にも興味があったが、地球以外の星の様子を知りたかったからだ。
しかし会話が成り立たない。言葉を教えたくても反応がわからなくては困るので、人型にしようと考えた。
幸い宇宙生物には知識欲があった。先に手順を説明して地球人の死体を近づけると、宇宙生物は自ら動いて入り込んだ。相性があるのか、なかなか思うようにはいかなかったが、最終的に成功した。意識は宇宙生物で、人間の死体をまるで生きているかのように操れるようになった。
私は自分の家で宇宙人と一緒に暮らし始めた。問題なく会話もできるようになった頃、時代は戦争の直前になっていた。へたに宇宙人だとわかるとまた研究所に連れて行かれる。私は赤ん坊の死体にとりついた宇宙人を自分の養女とすることで守っていた。そう、それがスザンナだ。
グリースから連絡が来たのは養女にしてからずいぶん経った頃だった。「あの宇宙人たちはどうやっても壊せない生物だとわかったので幽閉することになった」と。私は「スザンナは人間と同じ能力になったので安心してくれ」と話した。
実際、その頃のスザンナの見た目は人間と変わらなかった。以前会いに来た時は幼い子供だった姿が娘になっているのをグリースは家まで来て直接確認して納得したのか、戦争の準備に追われてそれどころじゃなくなったのか、それ以来そのことにはふれなかった。
すっかり人間の生活に馴染んで、話し、笑い、私の仕事の手伝いもしてくれるスザンナ。
私はスザンナにスザンナの仲間のことを話す勇気がなかった。話したら、私の家からいなくなってしまうだろうと思ったからだ。私はスザンナに何度も言い聞かせていた。「おまえは人間になったのだよ。能力はすべてなくなったから、地球で生きていきなさい」とね。それからしばらくは、以前と変わらない生活を送っていた。
そのうち戦争が終わり地球が保護区域に指定された。多くのものを失った。でも私のそばにはいつもスザンナがいた。
それが突然、いや、今思うと以前から計画していたのだろうが、スザンナは消えた。その前の晩、いつものように一緒に夕食を食べた後、スザンナはうたってくれた。初めて覚えた名前の曲と、もう一曲。彼女の記憶の奥にあるという歌を地球人語に訳したものだ。私はとても気に入って、覚えるまで何度も歌ってもらっていた。
シーテウス博士は彼がスザンナから聞いた聖歌のような歌を口ずさみながら静かに泣いていた。
彼がそっと部屋を出ようとした時、博士のつぶやきが聞こえた。
「無事で良かった。また会いたいものだ」
※
彼が一人乗りの宇宙船で脱出して間もない頃ーー。
スザンナはやがてくる空気がなくなる時を待たずに、自ら大広間の窓を開けた。少なかった空気が宙域へと抜け出ていくのと一緒に、憩いの間の小物やスザンナも外へと吸い出される。
本来ならそれで終わるはずだった。地球人なら、生身で宙域に出れば、やがて破裂するはずだった。
予想に反して、いつまで経ってもスザンナはただ漂っているだけだった。長い髪がまるで風に舞うように揺れている。息もできる。いや、宇宙生物であるスザンナに空気は必要なかった。
スザンナは初めて、長い間一緒に暮らしていたシーテウス博士が「人間になったのだ」とスザンナに嘘をついていたことに気づいた。
スザンナはもともと船に乗らなくても宇宙を旅できる体だった。人間の体と長期間同化していたことで、見た目だけだった人間部分もスザンナと同じ性質になっていたのだ。完全に同化したことで成長が止まったのねとスザンナは納得した。
スザンナがふわりと器用に体の向きをかえると、小さく青い星が見えた。スザンナの目から小さな水の粒が星の欠片のようにこぼれていく。
どうしてシーテウス博士が嘘をついたのかスザンナにもわかったのだ。
(博士はもう私の家族だった。正直に話してくれたら良かったのに。私も話せば良かったんだわ)
スザンナが博士の家を出た理由は、成長できなくなったからだった。地球人でなければ博士と一緒にいられないのだと思い込んでいたスザンナは、博士に拒否されることが怖くて、成長が止まった体に気づかれないうちにと家を出たのだ。
(もう一度、博士に会いたい)
※
彼は大きな建物から地上におり、久々に地球を歩く途中で、ふと顔を上げた。
空にひろがっているはずの星空は、少なくなった地球人を守るためのドームでさえぎられて見えないけれど、彼にははるか遠くで眠るエリタやかつての仲間たちを思い返すことができた。
暗いそらから落ちてきて
長い旅を終えた今
そらへ帰る
おかえりなさい
眠りにつくその前に
大切なものはなにか私に教えて
彼はずっと兵器を作り続けてきた。良い悪いではなく、単純にそういう環境だったからだ。
でも今は、以前と同じようには考えられなくなっていた。
今までしてきたことはもうできない。かといって、これからどこへ向かえばいいのかもわからない。
目の前に広がる白紙の未来に、彼はただ、迷子のように立ち尽くした。
......End
↓以下ネタバレ蛇足です。ご注意ください!↓
これもキアラと同じくらい、最初から最後まで詳細に見ることができた夢でした。
キアラ同様に当時から何回もの書き直しを経ていますが、こちらはもうほぼ完成だと感じています。書ききった感じで、細かい言い回しやなんかを修正したら完成するはず。
なんで主人公の名前がないの?
読みづらいですよね。
夢の中では名前がないことがほとんどで、小説にするときにイメージや響きで付けるんだけど、この主人公は思いつかなかったのと、毎回つけようか迷って、やっぱりこのままの方がいいかな、となるのでした。
宇宙船での殺し合い(夢でも痛かった)、組紐を額に巻いた女性(ウェーブがかった長い髪の美人)、癒やし生物(外見は長毛犬だけど二足歩行する)、個性的な小型宇宙船。今でも覚えています。夢の中でのスリープ時に聞いたのは、当時よく聞いていた
(「光あれ」という意味で、元は聖書の一節らしいです)
「Let There Be Light」を聞きながら宇宙を漂うのは夢見心地で、広い宇宙に浮かぶ宇宙船は映像的にも壮大でした(この夢は神の視点だった)。
同タイトルの海外映画もあるようなので(その映画自体は見ていないですが)、普通に言葉として使っても大丈夫そうかなと「Let There Be Light」をタイトルに使いましたが、作中の歌詞はZABADAKのものではなく自作ですのでご心配なくです。
ZABADAKの「Let There Be Light」の歌詞は英語で、まさに浄化してくれそうな曲です。
最初はここまで細かい設定じゃなかったのですが、最終的に、高校生から考え続けて社会人になって投稿した話の前日談として使ったため、設定が細かくつけられていきました。
うんうん必死に考えた本編も、いつかカクヨム様に持ってきたいです。
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