第3話 7月9日
「ねーねー、
生徒会室にある、大きなソファーに猫のように寝転んでいた
学校に入って一番手前にある主要校舎の3階に生徒会室はあった。
ちょうど普通の教室のくらいの広さで、冷蔵庫やテレビ、パソコン、ソファーにテーブルと、快適さを追及したフロアになっており、同じ建物の1階に職員室もあるので利便性もよい。
「ボク達がさ、ここまでやる必要あるのかなー。」
僕は、行方不明になっている生徒達の名簿、関係書類に目を通していたが、その手を止めて
「今日は土曜日だよ。休みの日にまで学校に出てくる意味ある?もう、警察に任せておこーよ。」
そう言うと、
「先生達も今日全員、職員室に来ているし、生徒代表で俺らも、情報は把握しておいたほうがええやろ。」
牛乳を片手に、食パンを3枚一気に頬張りながら
野太い声で言うのは、
「僕も、
生徒会たるもの、他の生徒達が安全に健やかに勉学に励めるよう、先生達と連携しないといけないよ。僕達が今回の問題に貢献することは内申にも高く評価されるはずだから無駄じゃない。」
シャーペンをカチカチ鳴らしながら、
「ちょっと待ってよ。
あーっ、もう!と、
「だいたいさー、ボク達だって、危なくない?
悪い人がこの学校のどこかにまだ隠れているかもしれないじゃん?」
「大丈夫だって。昨日、警察が隅々まで調べて回ってたからよ。下水管から、屋上の水が入っているタンクまでチェックしてたぞ。」
「周辺の茂みにいるかもしれないじゃん、ここ、小さい山だもん。
僕は、泣きつく
「わかったよ。もうすぐ昼になるから、とりあえず今日はここまでにしようか。職員室で挨拶してから帰ろう。」
「やったーー。」
生徒会室を出て、皆で階段を降りていると2階から3階の踊り場の所で、下から勢いよくかけ上がってきた人と
「うおっと!」
ラグビー部で鍛えぬかれた体格の良い獅斗はびくともしないが、はずみで相手が撥ね飛ばされた。
「大丈夫すか!?」
痛そうに顔をしかめて起き上がったのは三神先生だった。
獅斗が声をかけるが、三神は不機嫌そうな様子でちらっとこちらを見ると、無言でそのまま上に走って行ってしまった。
「なんじゃ、ありゃ。」
首をひねる獅斗に、光弦が可笑しそうに笑う。
「ほっとけばー。三神は変わってんだから、気にしない、気にしない。なんか、女性陣から人気があって、本人勘違いしてるみたいだけど、ボクの美貌の足元にも及ばないんだから。」
「
「失礼します。」
プルルルル、、。
職員室へ入ると、ちょうど大野がデスクの上で鳴っている電話の受話器を取るところだった。
ちょっと待て、と僕達に手で合図して話し始める。
「はい、はい、え?」
大野が驚いた声を出したので、周りの教職員がそちらを見る。
「
校長先生も大野のところへ、駆け寄った。
「はい、無事なんですね。わかりました。さっそく有栖川の自宅へ行きます。はい、ありがとうございました。」
受話器を置いた大野が、安堵のため息をついた。
「一年の
嬉しそうに校長が聞く。
「はい、
まったく!皆に心配かけおって!叱ってやらんといかん!」
と、いうことは単なる家出だったのか。
風呂場の窓から外に出て?
全裸で?
僕は暫く考えていたが、大野に提案する。
「先生、僕も一緒に有栖川くんの家に行きたいのですが。」
「ちょっと、世っちゃーん。」
「すまない、
光弦は不満そうな顔をしたが、
「わかったよ。」
と拗ねた風に言った。
正門を入ってすぐ傍にある、職員用駐車場に停めてあった黒色の大野の自家用車に、助手席に僕、後部座席に校長が乗り込んだ。
有栖川の自宅はここから車で30分ほど走らないといけない。
ふと見ると、3台向こう隣のパールピンクの軽自動車に、黄色いテープが幾重にも張られている。
「大野先生、あれは、、。」
エンジンをかけると、シートベルトを締めながら、苦い顔で。
「ああ。河村先生の車だ。」
そう、僕が調べていた書類にも記入されていた。
河村先生は、毎日この軽自動車で一人暮らしをしている自宅マンションから1時間かけて通勤していた。
おとつい7日夜19時に、さらに離れた実家に住む母親とマンションで食事をする予定だったが約束の時間になっても帰らず。
同日7日19時半頃、部活の生徒も皆下校したあと最後に学校を出た校長と教頭と大野は、河村先生の車を見ていない。
そして、朝練の為、昨日の朝7時頃に登校してきた、運動部の部員やその顧問が来た時には、すでに駐車場に停まっているパールピンクの軽を確認している。
夜から朝方までの間に、河村先生は何らかの理由で学校まで来た。
そして、そのあと、何があったのだろう。
警察は、先生も含めいなくなくなった人達の交友関係を調べているらしいのだが。
僕はもう一度、皆のいなくなった場所を頭の中で整理をしてみる。
河村先生は車を停めたままだから、おそらく学校。
3年の
2年、
同じく2年の
そして、今無事に帰宅はしたが、
あの美しい満天の夜、一体、何が起きたのか。
大野は、校長や生徒を乗せているとは思えないほどの荒い運転で、学校からの下り坂を駆け抜けていく。僕は激しく体を揺さぶられながら、後ろに飛んでいく緑色の木々を見つめていた。
ピロリン。
LINEだった。
体が右に左に揺られるなか、なんとかLINEの画面を見る。
それは、お疲れさまです、という文字入りのパンダのスタンプから始まっていた。
月衣ちゃん。
スタンプのあとに、生徒会の仕事をねぎらう言葉、最後に無理をしないで下さいね、と締めくくってある。
付き合い始めてから約1ヶ月近くになるが、期末試験があったり、生徒会の用事などで忙しく、ふたりきりでデートらしいことはまだ一度もしていない。
だから、一昨日の月衣ちゃんと彼方君の3人で天の川を見たのは本当に楽しかったし、嬉しかった。
今までの僕は、なるべく大勢の人に、平等に優しく、力になれるようにと考えて生きていた。後継ぎということで、幼い頃から帝王学みたいなそういう、少し特種な教育を受けてきたせいかもしれない。
だが、父親から言わせると、僕は甘すぎるらしい。
もっとシビアに自分の利になるように動けと日頃から何度となく言われてきた。
だが、僕はそういう生きかたはあまり好きではなくて。
でも、最近、君を知ってから、特定の人に、自分のエネルギーを注ぎたいと思い始めた。
それは自分の中でも大きな変化だと思う。
今回の件が解決したら、まずは食事に誘ってみようか。
たしか、オムライスやカレーが好きって言ってたな。遊園地や動物園も喜びそうだ。
なぜか、どうしても、お子さま向けの案になってしまうことに、思わずフッと口元が緩む。
「どーした、
大野が、荒いハンドルさばきの合間にチラチラと僕を見ながら。
「いえ、何でもありません。」
不謹慎だったと、あわてて僕は背筋を伸ばし、眼鏡を正す。
「フォッ、フォッ、フォッ。」
「どうしたんですか?校長まで。」
後ろからの校長の急な笑い声に、大野が尋ねる。
「いえ、若いということは良いことですな。」
大野は意味がわからないといった様子で、首をふりながら、
「それにしても今日も暑いな。」
とぼやき、汗をぬぐうとハンドル近くにあるタッチパネルで車内のエアコンをMAXにした。
昨日のどしゃ降りのせいで、北条家の庭はカオス状態になっていた。裏山から飛んできた笹の葉などが、辺り一面に散らばっている。
掃除をしなくちゃと倉庫から
「珍しいな、掃除するのか?」
「うん。」
太陽は真上あたりまでのぼっていて、気温がぐんぐん上がっているのか肌がヒリヒリとして。
「おまえ、もう腕が真っ赤になってるし。日焼け止め、ちゃんと塗ったか?」
「ううん。めんどいもん。」
「はぁ。やっぱりな。」
しばらくして、日焼け止めクリームと麦わら帽子を持ってきて私を縁側に座らす。
そして、クリームを自分の手に出すと、私の腕に塗り始めた。
いつの頃からか、私の何倍も大きくなった彼方の手が包みこむように、クリームを拡げていく。
「自分でやるからいいよ。」
「だーめ。月衣、適当に塗ってムラにするの目に見えてるから。」
Tシャツから出ている二の腕から手首まで。そして、首の後ろを彼方は丁寧にクリームを伸ばしてくれて。
私は、思わず下を向いてしまう。
彼方の掌の感触に、自分だけがこんなにドキドキして恥ずかしい。
昨夜みたいに、同じひとつ屋根の下で寝ても、彼方はさっさと2階の自分の部屋へ行き、私は1階の普段使っていない和室に布団をしいて。
家族みたいに、私の事はまるで意識しない。
小学5年のあの日から、私達はほんとの兄妹になったのかな。
行方不明事件が起きてるこんな状況下で、そんな事にモヤモヤしている自分もイヤになる。
「これで、よし。この麦わら帽子もちゃんと被っとけよ。俺は、今からコンビニに行ってくる。」
「アイス買いにいくの?」
「ったく、おまえはー。あそこでバイトしてる中学ん時の先輩と仲いいから、こっそり防犯カメラを見せてもらうんだよ。ほんと、おまえは食いもんの事ばっかだな。」
「あ。おとといの夜のカメラの記録に
「ああ。おまえ、水分ちゃんととりながら掃除しろよ。」
「ほーい。」
モスグリーンの大きめのTシャツ、グレーの短パンにサンダルというラフな格好で出かける彼方に手をふった。
私と違って、子供の頃から落ち着きのある冷静な性格だ。
だから、夜、知らない人と会ったり、事件に巻きこまれるとは考えられない。
もちろんすごく心配だけど、絶対大丈夫、っていう思いの方が強い。
彼方がコンビニの監視カメラをチェック出来たら何かわかるはずだよね。
1時間後。
かなり広いので時間がかかったが、笹の葉もだいぶ取り除けて、庭はわりときれいになった。
暑さで少しくらくらするが、私は大満足で。
家のぐるりの塀沿いには、松や桜、ツツジなどさまざまな木や花が植えられている。
彼方のお父さんは、海外に単身赴任中だから、年に一度かニ度帰ってくるか来ないか。なので、いつもは彼方が庭の手入れをしてくれている。
箒と塵取り、ゴミ袋を持って家の北側にある倉庫へと持って行く。
倉庫のそばの塀の向こうは一面竹林で、それは北西にある裏山へとずっと続いていく。
竹は庭に侵食してくるから大変だけど、眺めはとても素敵だ。
どこまでも、きれいな緑色。
ん?
敷地を出たすぐの所にある竹の葉が光っている。
キラキラ揺れているようだ。
私は、倉庫のそばにあった小さめの梯子を使い塀を乗り越える。
5メートルほど歩いたあたりの竹で、ちょうど胸辺りの高さの位置の葉に、金色の鈴がついた鍵が引っ掛かっていた。
鈴の部分が光ってたのか。
でも、なんでこんな所に、こんなものがあるのかな。
この向こうは山しかないし。
鍵は、私の物でもないし、彼方の物でもないはず。
何の鍵だろ。
不思議に思いながら、とりあえずポケットにしまう。
それにしても、汗をかいた肌に竹林からの風が当たり、心地いい。
私はしばらくの間、眼を閉じて、そこに佇んでいた。
コンビニのレジ奥のバックヤードで、中学時代の先輩がパソコンの前に座り、7月7日の21:00あたりからの駐車場の映像を検索してくれていた。
俺はガリガリ君を食いながら、先輩の肩越しから一緒に
「あ!」
21:45の所で、俺は声を上げた。
カメラはコンビニの建物側から、駐車場、道路が見えるアングルになっていて、俺達の家のある方向から道路を渡り、体操服姿の人物が歩いてくる。
先輩がアップにしてくれた。
間違いなく陽翼だ。
陽翼はコンビニの中には入らず、駐車場で手に持った携帯をいじっている様子だ。
しばらくすると、スポーツカータイプの黒色のベンツが入ってくる。
運転手が笑顔で窓から手をふっているようだ。
歳は40代くらいだろうか。
仲良さそうに話したあと、陽翼は助手席に乗り込むとそのまま車は道路へ出て走り去っていった。
うーん。
これって、陽翼のお母さんが言ってた、叔父さん、なのか?
年代的には合っているようだが。
俺は叔父さんの顔を知らないから、陽翼んちの家族にこれを直接見てもらったほうがいいな。
て、ゆーか、普通こういうの警察が早く調べたりしねーのか?
疑問に思いながら、陽翼の自宅の番号を押そうとした瞬間。
突然、呼び出し音。
画面には、ヨースケ と名前が出ている。
本人からかかってきた!と、先輩に言って急いで、通話にタップする。
「もしもし!
『、、された。』
「え??」
電話の向こうで、陽翼がつぶやく。
落ち込んだ声で。
『おれ、誘拐された。』
「はあーー!?」
今や青葉の家は、騒然となっていた。
結論で言えば、やはり、陽翼の父親の弟、陽翼の叔父にあたる
別の用事で言葉巧みにコンビニまで呼び出し、そのまま
誘拐といっても、もちろん危害は加えられてなく、純平が所有している軽井沢の別荘へ連れて行かれ、帰してもらえない状態というわけだ。
この町から軽井沢までは、距離にして悠に1000㎞は越えている。
お金も交通手段もなく、おまけに携帯まで隠されて、陽翼はどうすることも出来なかったが、純平が町に買い出しに行った隙をみて、携帯を探し、俺にかけてきた、という訳だ。
「そういえば、純平の奴、1ヶ月程前に電話で話した時に妙な事を言っていたな。」
陽翼の父親が、あたふたと準備をしながら、何かを思い出すように呟く。
「妙な事?」
俺が尋ねると、母親が手をポンと叩きながら、
「そーなんよ!うちら家族みんなで、今すぐ軽井沢に来いと言うとったわ。」
「今すぐ、ですか?」
「ああ、遊びに来いとかじゃなく、アイツの別荘に移住しろと。そんなこと急に言われても仕事や学校もあるし無理に決まっとるのに、変なこと言う奴やな思て、相手にせんかったんやが。」
父親は自分の弟のやらかした事に頭が痛いといわんばかりに首をふった。
「とにかく、一刻も早く陽翼を連れて帰らないかん。」
今から支度ができしだい、さっそく父親が軽井沢へ出発することになり、身内のしでかした事なので、警察や学校には、ちょっとした手違いで連絡が取れなかったが、叔父と一緒にいるので問題ないと伝えるとのことで、落ち着いた。
「でも、彼方くんが監視カメラ調べてくれたり、陽翼からの電話出てくれたりして、ほんと助かったわー。これ、お食べ。」
出されたスイカにかぶりつきながら、なんかよくわかんねーが、陽翼に関してはこれで一応ひと安心だな。
俺は安堵の息を吐いた。
「すみません、ご足労いただきまして。生徒会長まで来て下さったんですね。うちの息子が、大変ご迷惑をおかけしました。」
有栖川の自宅に着くと、
和室に通され、瞬の姉が、僕達に冷たい飲み物を運んでくる。
姉はすごく心配したのだろう。
瞼は腫れ、憔悴しきった様子が窺える。
「まあ、とにかく無事に戻ってきて良かった!」
叱ってやると息巻いていたのに、大野は、ニコニコと瞬と握手する。
「特に問題ないなら、あさって月曜はちゃんと学校にくるんだぞ。」
言葉数も少なく、伏し目がちで大人しそうな雰囲気だ。
「で、おとつい7日の夜から今朝までの間、一体どこにいたんだね?」
校長がやんわりと尋ねる。
「、、、。」
「わかったよ。また、言いたくなったら聞かせておくれ。」
無理強いをしてはいけないと思ったのか、校長は笑顔でポンポンと彼の肩を叩く。
カタカタ。
どこからか音がする。
僕はふと斜め後ろに座っている瞬の姉を見た。
先生達も誰も気づいていないが、それはお盆を持つ姉の手が震えていたせいだ。
目は涙をこらえようとしているのか、大きく見開いている。
声をかけようかと思ったが、なぜだが今はやめておいたほうがいいと思い、僕は気づかないふりをする。
しばらくして、大野が、では、私達はこれで、と立ち上がるまで、姉の手は震えていた。
帰りの車の中で、大野の携帯に、学校から連絡があり、
よかった、よかったと盛り上がる大野と校長をよそに、僕は有栖川の事を考えていた。
大切な家族がいなくなり、心配するのは当然だが、無事に帰ってきている
普通、高1ともなれば、言いたくなければ、街をうろついていたとか、適当な嘘でもつけるだろう。
だが、彼はまるで、黙秘をしているようだった。
「ハックション!」
「風邪ひいちまったか?」大野がくしゃみをし鼻をすすりながら。
行きもそうだが、大野の車はエアコン全開で気づけば冷蔵庫の中にいるみたいだ。
「大野先生、冷やしすぎですよ。校長先生も寒くないですか?」僕は後ろに座る校長を振り返る。
「うむ。南極にいるようじゃ。」
大野先生は暑がりなんだな。本当に風邪をひかなきゃいいが、、。
僕はそっとエアコンをオフにした。
夕方、陽翼の母親から、おすそわけでもらったスイカを持って自宅に戻ると、庭がすっかりきれいになっていた。
ちゃんと真面目に掃除してんじゃねーか。
「あ!
自分の部屋にいたのか、離れから月衣が出てくる。
「おまえ、昼間はいいけど、夜はまだこっちの母屋で寝ろよ?」
「うん。でもね!聞いて!さっき
ああ、あの風呂場から消えたって奴か、、。
俺は月衣に陽翼と連絡がとれたこと。原因は叔父さんで、そして、ついさっき、陽翼のお父さんが軽井沢まで迎えに行くため、家を出たことを伝えた。
月衣は目をまるくしながら聞いていたが、
「とにかく、陽翼が無事で良かったね!」
と、嬉しそうに頷く。
「1年生の子も大丈夫だったし、河村先生や、あとの2人もきっと、なんてことはなくすぐ、見つかりそーだね。」
「ああ。そうだといいな。」
ーー
「おい、
夜、買い出しから戻ってきた
「そりゃ、電話するさ。みんなに黙ってたら心配するだろ。これって、立派な誘拐だよ、
純平は、ドサッと大きな大理石のテーブルの上に、たくさんの買い物袋を置く。
彼は細身だが、ずっとジムで体を鍛えているだけはあって、腕の筋肉は力強くしっかりとついている。
「てか、そんなにたくさん何買ったの、食べる物は冷蔵庫に十分入ってたよ。」
僕が疑問に思い、たずねると。
「これか?緊急時に備えてるのさ。」
「緊急時?」
地震とか?
そういや、最近、今まで以上に地震が増えてる気がする。
震度4以上が全国各地で起きていると、この前テレビのニュースキャスターが言ってたっけ。
「そろそろ、あの東南海地震が来そうってこと?」
純平は、何か考えていた様子だったが、意を決したように言う。
「うーん、、。そりゃ、地震も近い内に来るだろうが、だが、それとは別に、やっかいな事が起こるのさ。」
「やっかいな事?」
「ああ。しかも、もう一週間きってる。1ヶ月程前に兄さんにも話したんだが、大事な家族だからね。でも聞く耳持ってくれなかったんだよ。」
純平は続ける。
「お前は、まだ若いし、今からの人生だから。だから、兄さん夫婦のことは、あきらめるけど、お前だけは何とか助けてやりたくて、無理矢理になってしまったけど、ここへ連れてきたんだよ。」
「ちょっ、ちょっと待って、意味わかんないんだけど。しかも、一週間以内って!ちゃんと説明してよ。」
「そうだ!
純平の別荘は、近代的な大邸宅だ。
昔は、僕の家の近所のアパートに住んでいて、よく遊んでもらっていたが、小説やエッセイなどの仕事が本格的に入り始めると、東京へ引っ越ししてしまい、滅多に会えなくなっていた。
この軽井沢の別荘と乗ってきたベンツは昨年購入したモノらしい。
リビングやダイニングがある2階から、純平は中央にある、階段を1階に降りていく。
1階には、多目的ルームが幾つかと、打ちっぱなしの屋内ガレージになっていて、そのガレージ奥の隅にあるドアを開ける。
そこには、さらに下に降りる階段があった。
陽翼の中に、じわりと不安がよぎる。
2人で階段を下った先にある頑丈そうなドアを開けると、そこはガレージと同じ広さの空間が広がっていた。
壁には一面棚があり、缶詰めや薬がところせましと並べられ、ラジオや無線機なども置いてある。
天井には変わった通風坑のようなものがいくつも設置されていた。
純平さんは、、叔父は、、もしかして。
頭がおかしくなったのではないか。
「
純平が振り返り。
僕は、額に冷たい汗が流れるのを感じながら、頷いた。
「そう、ーーシェルターだよ。」
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