第四章 河童の河太郎


「大丈夫ですよぉ。あたしの蛇は、おとなしいから。」


夏海は、少し恥ずかしそうに、蛇美の手を取り、舞台の上に上った。


「本当に、可愛い、お嬢さん。」


そう言いながら、大蛇を手に持ち、夏海の首に回す。


「本当に.........。憎らしいぐらい。」


「えっ.........?」


眉を寄せた夏海は、大蛇がジワジワと首を締めてくるのに、瞳を震わせる。


蛇美は、ダンダンと強く舞台の床を踏む。


ギリギリと、大蛇に首を締められ、夏海は、顔を歪める。


「く…苦しい…。」


呟いた夏海は、フッと大蛇が首から離され、ゴホゴホと、咳き込み、喉を押さえた。


「あらあら。今宵は、大蛇の機嫌が悪かったようで…。ごめんなさいね、お嬢さん。」


震える瞳で、蛇美を見つめ、夏海は、客席に戻って行った。



ショーが終わり、夏海は、小屋を出た。


「夏海さーん。」


声を掛けられ、そちらを見ると、河太郎がにっこりと笑い立っていた。


「河太郎さん。」


夏海も笑みを浮かべ、河太郎を見つめた。


「大丈夫ですか?首…。」


心配そうに言う河太郎に、夏海は、小さく頷いた。


「ええ。」


河太郎は、夏海の耳元で言う。


「蛇美は、あんたに嫉妬してんだ。」


「えっ…?」


「蛇美は、白狐さんが好きなんだよ。」


その言葉に、夏海は、顔を曇らせる。


「そう…だったの。白狐さんも蛇美さんを…?」


「いや…。白狐さんは、誰も好きにならないよ。」


河太郎がそこまで言うと、小屋の奥から、彼を呼ぶ声が聞こえ、慌てたように、小屋の中に入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る