第四章 河童の河太郎


長屋の近くまで来ると、夏海は、白狐に声を掛けた。


「白狐さん、もう、いいわ。下ろして。」


夏海に言われ、白狐は、身を屈める。


白狐から離れ、下駄を受け取ると夏海は、トントンと下駄を履き、軽く頭を下げた。


「ありがとう。」


そう言って、長屋の方へ歩いて行こうとした夏海の名を呼ぶ白狐。


「夏海。」


「えっ?」


振り向いた夏海に、白狐は、スっと手を差し出す。


その手には、一枚のチケットがあった。


「これ、今夜のチケット。今度こそ、ショーを見に来て。」


「えっ…でも、悪いわ。」


白狐は、夏海の手にチケットを握らせると、フッと笑う。


「さっきのお詫びだよ。…待ってる。」


そこまで言うと、白狐は、背を向け歩いて行った。


「白狐さん…。」


夏海は、嬉しそうに、チケットに頬ずりした。


『 今夜こそ、見れるのだわ。』


見世物小屋のショーは、諦めていた夏海だったがやっとショーを見れる喜びに、笑みを浮かべる。

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