第二章 魅せられて


次の日の朝。


小屋の裏の井戸で水をくみ、着物の上を脱ぎ、手拭いで身体を拭いている白狐の側に、蛇美が近付いてきた。


「白狐…。」


呟いた蛇美をチラリと見て、すぐに視線を逸らした白狐の背に、スッと指を這わす蛇美。


「汚い手で触るんじゃねぇよ。」


冷たく言う白狐から手を引き、蛇美は、寂しく俯く。


「…まだ、怒ってんのかい?」


「別に…。」


蛇美は、白狐の側に駆け寄り、背中から抱きしめた。


「.........ごめんよ。でも、あんたも悪いんだよ。人間の女となんか仲良くするから。」


呟いた蛇美から、スッと離れ、白狐は、冷たく言う。


「たった一回、そんな関係になったからって、勘違いするんじゃねぇよ。俺は、おめぇのことなんて、何とも思ってねぇんだから。」


着物を整え、そこを去ろうとした白狐に、蛇美は、怒鳴るように言った。


「人間となんか上手くいくわけないだろ!それは、あんたが良く知ってることじゃないか!」


その言葉に、白狐は、足を止め、振り向きもせずに、こう言った。


「俺に指図するな。干渉されるのは、嫌いだ。」


「白狐…。」


木々の奥へと歩いて行く白狐の後ろ姿を蛇美は、悲しく見つめた。

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