第二章 魅せられて


夜が近付き、小屋の中では、ショーの準備が行われていた。


不機嫌な顔で準備をしている白狐を見て、火男(かお)が蛇美に、声を掛けてきた。


火男は、火を操る男である。


「おい、白狐と何かあったのか?」


その言葉に、蛇美は、チラリと白狐を見て、顔を背けると、ムスッとした顔をする。


「知らないよ。」


「知らないわけはないだろ?」


ニヤけた顔で見る火男に、蛇美は、ますますムスッとなる。


「知らないったら、知らないよ!そんなことより、サッサと準備しな!」


怒鳴る蛇美に、肩を竦める火男。


その火男の着物の袖を掴み、クイクイと引っ張る狛絵(こまえ)。


狛絵は、犬を使ってショーをしている女である。


火男を舞台のそでに引っ張り、狛絵は、小声で言う。


「また、蛇美の嫉妬さ。白狐が人間の女と仲良くしてるもんだから、やきもち焼いてさ。」


「フン…。人間と仲良くだって?バカバカしい。だいたい、蛇と狐も、ありえないけどな。」


「全くだぁ…ないない。」


火男の言葉に、クスクスと狛絵は、笑った。


「おい。そこの火と犬。くだらねぇこと話してねぇで、手を動かしな。」


舞台の飾りつけをしていた白狐が火男と狛絵に、そう言った。


「聞こえてたんだ。」


「ありゃ、地獄耳だな。」


ペロリと舌を出し合い、二人は、準備の続きを始める。

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