第二章 魅せられて


次の日。薬屋の仕事を終え、再び、神社へと来た夏海は、神社の階段を上り、裏手に回る。


ザッザッザと砂利を踏む音に、小屋の前の木陰で、身を丸め、ウトウトとしていた白狐は、うっすらと目を開けた。


目の前にある下駄を履いた足に、視線を上げると、夏海が立っていた。


身を起こし、大きく伸びをした白狐は、まだ眠そうな目で、夏海を見上げる。


「また、あんたか…。」


白狐の言葉に、夏海は、腰に手をあて、怒ったように言う。


「あんたじゃなくて、夏海です。」


「はいはい。」


面倒臭そうに呟き、ファーッと大きな欠伸をした白狐の横に、腰を下ろし、夏海は、眉を寄せる。


「どうして、こんな所で、寝てるの?」


「好きだから。」


「えっ?」


「草の上が好きだから。」


乱れた銀色の髪を撫でながら呟く白狐に、夏海は、クスッと笑う。


「白狐さん、本当の狐みたい。」


一瞬、寂しげな顔をした白狐は、すぐにフッと笑った。


「小屋の中は、狭いんだ。」


「他の人達も、寝てるの?」


「俺達の仕事は、夜だから、昼間は、みんな寝てるよ。」


小屋の周りをパタパタと風でなびいている旗を見つめ、夏海は、フゥーンと鼻を鳴らした。


「白狐さん。」


「んーっ?」


眠そうに目を擦っている白狐を優しく見つめ、夏海は、呟く。


「昨日の夜は、ありがとう。お礼も言わずに、別れちゃったから。きちんと、お礼言わなきゃと思って。」


「そんなこと、わざわざ言いに来たの?」


「そんなことじゃないわ。とても、大事なとこよ。嬉しい時は、嬉しい、悲しい時は、悲しい…気持ちを伝えるのは、大事。」


夏海の言葉に、白狐は、首を傾げる。


「人間って、いろんな感情があって、面倒臭いね。」


「何よ、それ〜。白狐さんだってあるでしょ、いろんな感情。」


白狐は、腕を組み、少し考え応えた。


「腹減ったとか眠いとか…そういうのは、感じる。」


それを聞き、夏海は、プッと笑った。


「やだぁ、白狐さん。面白い。」


「そう…かな?」


白狐は、立ち上がると、着物についた草を叩く。


「今夜も、来る?」


尋ねる白狐に、夏海は、少し顔を曇らせる。

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