第一章 見世物小屋がやってきた


小屋を通り過ぎる男に、夏海は、眉を寄せる。


「小屋の中に入らないの?」


夏海の問いに、男は、口元に指を立てる。


「シーッ…仲間に見つかると、面倒だから。」


男に言われ、夏海は、口を閉ざした。


小屋を離れ、広い野原に連れて来られた夏海は、思わず、声を漏らす。


「わぁー、綺麗。」


今宵は、満月。

月の明かりに照らされた、その場所は、まるで、この世の場所ではないぐらい、美しかった。


男は、近くの岩に、夏海を座らせる。


「特別だから、ショーは、俺一人。…それでも、構わない?」


「…はい。」


にっこりと笑った夏海の顔をじっと見つめ、男は、腰に下げた手拭いをサッと取り、差し出した。


「鼻水、出てる。」


男の言葉に、カァーッと顔を赤くして、夏海は、手拭いを取ると、慌てて鼻を吹く。


それを見て、男は、プッと吹き出すと、あははと、声を上げ笑う。


「笑わないでよ…。」


少し怒った顔をした夏海に、男は、優しく微笑む。


「ごめんごめん。あんたみたいな人間、初めてだ。」


「えっ.........?」


眉を寄せ見つめる夏海に、クスッと笑い、男は、月を見上げると、コーンと一声、声を上げた。


ザザザと、草木が揺れ、何処からか、狐が一匹、二匹と現れる。


「さぁ…狐の舞い、とくとご覧あれ。」


狐の群れの中に駆けて行き、男は、クルクルと、身を踊らせる。

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