第一章 見世物小屋がやってきた


「いやー、凄かったなー!」


「楽しかったねー!」


そんな人々の声を聞きながら、夏海は、寂しく息をついた。


『 .........間に合わなかったのね。』


しょんぼりと俯き、力無く、階段を下りようとした夏海は、声を掛けられ、顔を上げた。


「お嬢ちゃん。」


ハッとなり、階段を見上げた夏海は、階段の一番上に腰を下ろし、煙管で煙草を吸っている男に、瞳を震わせた。


男を見つめながら、カンカンカンと下駄を鳴らし、夏海は、男の元に駆けて行く。


「あたし…あたし、ショーが見たかったの!あたし…あたし…。」


そう言いながら、階段を駆け上っていた夏海は、足を引っ掛け、倒れそうになった。


「おっと!」


階段で、顔を打ちそうになった夏海の身体がフワリと浮いた。


煙管を口にくわえた男が夏海の身体を片手で抱き上げていた。


顔を真っ赤にして、息を切らせている夏海に、男は、フッと笑った。


「そんなに慌てなくても、俺は、消えたりしないよ。」


優しい男の瞳に、夏海は、慌てて側を離れ、階段に崩れるように、座り込んだ。


「…見たかった…見たかったのに…。」


そう言って、泣き出した夏海に、カンッと階段に煙管を打ちつけ、煙草を消すと、胸元に煙管を入れ、彼女の手を取った。


「おいで。特別に、見せてあげるよ。」


涙に濡れた顔で、夏海は、男を見つめた。


男に手を引かれ、夏海は、階段を上って行く。

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