第5話 赤に呑まれる既読

 あれから2日経った。テレビはずっとつけっぱなしにしているが、進展はない。

 機体も見つからない。乗っていた人達が突然ぽっかりとこの世から消え、その家族が混乱している。


「一昨日、レーダーから消えたまま行方がわからなくなっている369便のニュースです。現在も捜索活動が行われていますが、墜落したような痕跡は未だ見つかっておりません」


 どのアナウンサーも言うことは同じだった。

 そんな代わり映えのしないテレビを、それでもずっとつけ続け、いつか速報が入ることを信じて眠れない日々を過ごしている。


 俺は今日も会社に休みの連絡を入れた。

『ああ、池藤か。今日も休みか。こんなことがあったから仕方ないよな。お前、飯食ってるか? ……そっか。何か手伝えることあったら連絡くれな。気をしっかりな』

 俺は恵まれている。


 こんなに休みをもらっても、クビになるどころか力になってくれると言ってくれる上司がいる。

 いつまでも迷惑をかけてはいられない。自分でもわかっていたが、どうしても身体が言うことをきかなかった。


 なぁ、南那。

 南那に買ってもらったネクタイを、俺はまだ締めて出社できていないんだよ。


 震える手で南那に電話をかけてみても、やはり繋がらない。LINEを送っても既読がつかない。


 いったいどこに消えちまったっていうんだよ……南那!


 ──カチャン。


 その時、空の灰皿から音がした。


 テレビの音量を大きめにしているのに、なぜか鮮明に耳の奥に突き刺さる金属音。

 そういえば俺は、あれからタバコを吸う余裕もなくずっと放心状態だったな、と思い出した。


 とりあえずタバコを吸おうとタバコの箱とライターを手に取り、灰皿に目をやると、そこに見覚えのあるものが光っているのが見えた。


 ……ん?


 そこには、一昨日南那が嬉しそうにつけていた、俺が買ってあげた誕生日プレゼントのネックレスが入っていた。


「……な、南那……」


 思わず手に取ろうと触れた瞬間、それはタバコの灰となって崩れてしまった。

 はやりネックレスは今も南那が身につけているはずだ。今頃きっとひとりで泣いているはずだ。


 どうやったら南那のところに行ける……?

 南那のいるところは天国でも地獄でも、この世でもない。いったいどこだ……?

 俺はどこへ行ったら南那に会えるんだ……?


 いても立ってもいられなくなった俺は勢いよく立ち上がり、行くあてなんかわからないのに外へ行こうとした。



 ……が、栄養が少し足りていなかった俺は、その場でぶっ倒れてしまった。


 あ……まずった。打ちどころが悪いかもしれない……。

 目の前に、赤い湖が広がった。


「俺……死ぬかも……」


 南那のいないモノクロの世界で生きるより、死んだ方がマシ……かな……。



 開かれたままになっていた南那とのLINEのトーク画面は、まだスリープしておらず、俺が最後に南那に送ったメッセージに、そっと既読がついた時には、俺の意識は赤い湖に溺れていた。


 ──『南那!生きてるか!?』

 ──『南那!生きてるか!?』 既読


 ──『今ついたよ!何それ?生きてるよ!』

 ──『おーい!』



『時空を歩く既読』

──完──

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