第4話 モノクローム

 帰りの電車の窓から見える景色は、曇り空で、車内の光景も俺には灰色に映った。

 南那がいるだけで、この世界には色がつく。


 南那がいないだけで、この世界はモノクロになるんだ。


 横を見ても、行きの電車では南那が笑っていたのに、もう南那はいない。

 どれだけ残像を探しても、見つからない。

 もう南那の乗った飛行機は飛び立った時間だ。


 ──今頃どこの上空を飛んでいるのだろう。南那の目には何が映っているのだろう。



 明日からこのモノクロの街を、もがきながら仕事に行くんだな……と思いながら家に帰り、いつもの癖でテレビをつけた。

 一人暮らしをしているとやはり淋しいもので、つい見る番組もないのにテレビをつけてしまう。


 テレビから聞こえてきたのは、耳を疑うアナウンサーの言葉だった。


「えー、速報です。ただいま入った情報によりますと、東京発大阪行きの369便がレーダーから消えた模様です。現在無線の連絡は途絶えたままになっているということで、陸上自衛隊および海上自衛隊が捜索にあたっています。繰り返します、東京発大阪行きの……」


 ──え……? 事……故……?


 思わず音量を上げて画面にしがみつく。

「嘘……だろ……? 南那……」


 俺は震える手でリモコンを操作し、詳しく報道しているチャンネルを探した。

 けれど、どこの放送局も墜落したような機体は見つからないと報道している。


 自衛隊が上から撮影している映像を見ても、煙も上がっていなければ機体が落ちている様子も見受けられなかった。



 「そんな顔しないでよ! また会えるんだし」──


 別れる間際に南那が笑って言った言葉が反芻される。

 また会える? そんな保証は生きている中でどこにもない。今日会った人と明日もまた会える保証など、どこにも、誰にもないのだ。


 あの時、俺が南那に『まだ帰るな』なんて言ってもチケットは取ってあったわけだから、南那はあの飛行機に乗っただろう。運命は変えられないのだ。


 南那、今どこにいる? 何が見えてる?

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