第14話 ヘビとカエルとナメクジ


「ゲロゲロゲー!!」


 俺はカエルボディで周囲の雑魚どもを蹴散らしながら進んでいく。


 だが、雑魚のレベルも20を超える奴が多く見かけられるようになってきた。


 油断すれば、このカエルと言えども厳しい戦いを強いられることになるだろう。


「シャアアアアアアアァァァァッ!」


 ……言っているそばからこれだ。


 俺の前に現れたのは巨大なヘビ。凶悪な顔つきで、明らかに捕食しようと俺のことを狙っている。


 まさにヘビに睨まれたカエルというわけだな。


 俺は鑑定を発動して相手の強さを調べる。



 *ステータス*


 名前:不明

 種族:ブラックサーペント

 性別:不明

 年齢:不明


 Lv:38

 HP:823/823

 MP:241/241

 STR:268

 INT:101

 DEF:357

 MDF:199

 スキル:毒牙

 耐性:毒耐性、麻痺耐性



 なんだこれは。


 このカエルよりも遥かにレベルが高いじゃないか。


 おまけに、全ての能力においてこいつの方が上だ。


 ……やはり、カエルでヘビに勝つことはできないようだな。


 ――だが、問題はない。


 そのカエルの中に入っているのはこの俺――つまりナメクジ!


 古来、日本においてナメクジはヘビを粘液で溶かして殺すことができるとされていた。


 ヘビはカエルを喰らい、カエルはナメクジを喰らい、ナメクジはヘビを溶かす。


 つまり、三すくみ的に考えて俺の方がヘビに対して有利だということだ。


 我ながら、完璧な勝利への方程式ができてしまったな。


ゲロゲロオォォォォォッかくごしろおおおおおッ!」

「シイイィィィィィィィィィィッ!」


 勝利を確信した俺は、雄たけびを上げながらヘビへ立ち向かっていく。


 ――がぶっ。


 そして、首元に噛みつかれて動きを止めるカエルボディ。


 しかし、これこそが俺の狙いだ。


 俺は寄生をやめて、カエルボディから緊急離脱する。


「くらえええええええええええッ!」


 そしてそのまま、ヘビの頭に向かって体当たりをした。


 ――べちょ。


「シャアアアアアアアアアッ!」


 しかし俺の攻撃はあまり効かず、怒ったヘビに振り落とされた。


 なすすべなく、地面に転がる俺。惨敗である。


 ヘビに睨まれ、絶体絶命の状況下で俺は叫んだ。


「当たり前だろッ! ナメクジがヘビに勝てるかッ! だれだそんなふざけたことをぬかした奴は! 俺がぶちのめしてやるッ!」


 ――そう、悲しいがナメクジの粘液ごときにヘビを溶かすほどの力はない。


 現実で三すくみが成立したら、ヘビが一方的にナメクジとカエルを蹂躙して終わるのである。


 ……ここは異世界だから現実というよりファンタジーだが、それでも夢は見させてくれないようだ。クソが。


 ヘビの身体が伸び、鋭い牙が俺の眼前に迫る。


 あれに噛みつかれてしまったら、寄生しても意味はないだろう。


「くっ……こんな所で……!」


 諦めかけたその時。


「ゲゲロゲロゲー!!」


 死にかけていたカエルが、突然鳴き出し、大口を開けてヘビの首元にかじりついた。


「シャアアアアアアアアアアアアアッ!」


 それに対して、皮膚に牙を突き立て激しく抵抗するヘビ。それでも食らいつくカエル。


 俺の目の前で、怪獣大戦争が繰り広げられていた。


「カエル……お前……!」


『あっしがこいつを抑えやす! 今がチャンスでげすよ!』


 俺には、カエルがそう言っているように見えた。(※言ってません)


「そうか……! お前の勇気、無駄にはしないぞ!」


 俺はその隙に、ヘビの横っ腹へ強烈な体当たりをくらわす。


「グシャアアアアアアアァァァァッ!」


 今回は油断しているところに攻撃できたので、それなりにダメージを与えることができたようだ。


 俺とカエルの華麗なコンビネーションによって、ヘビはどんどん劣勢に追い込まれ、そして――


「これで最後だああああああああああああああああッ!」


 俺が放った最後の体当たりによって、地面に倒れ伏したのだった。


 ブラックサーペント、討ち取ったり。


「やったな、カエルさ――」

「ゲロゲロオォォォォォッ!」


 刹那、カエルの舌が勢いよく俺の方へ伸びてくる。


 なるほど、昨日の友は今日の敵というわけか。


「つけあがるなカエル風情がああああああああああああああああッッッ!!」


 ヘビに散々攻撃されて手負いのカエルごとき、俺の敵ではない。


 怒りを込めた体当たりを腹に食らったカエルは、「ぐもぉ」と音を発しながら死んだ。


 どうにか、危機的状況を切り抜けることができたようだ。


 おまけに、今の戦闘でレベルアップすることもできたらしい。


 俺は死んだ二体をスキルで吸収した後、自分のステータスを確認する。



 *ステータス*


 名前:ジーク

 種族:ナメクジ

 性別:不明

 年齢:不明


 Lv:15

 HP:835/835

 MP:321/321

 STR:283

 INT:122

 DEF:294

 MDF:267

 スキル:鑑定、猛撃、毒牙、説得、吸収、防御、寄生、変容、増殖

 耐性:水耐性、氷耐性、炎耐性、毒耐性、塩特効



 ちょっと強くなりすぎじゃないか……?


 まあ、格上を二匹も吸収することができたから、その分ステータスも飛躍的に上昇したってことだろうけど。


 ……あれ、もしかして『吸収』って俺が思っている以上にやばいスキルなのか?


 確かレベルアップと同時に覚えたし、ナメクジが覚える固有のスキルだと思うんだが。


 もしかすると、今までは単純にナメクジの素の能力が弱すぎて、『吸収』のスキルが真価を発揮するまでに至らなかったのかもしれない。


 つまり、俺は隠れ強スキルを発見したということになるな。


 やったぜ!


 ――――それはそうと、新しく覚えた『増殖』とやらは何だろうか。


 試しに使ってみるか。


 俺はそう思い、『増殖』を発動した。

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