第15話 貴重な産卵シーン


「これは…………」


 俺は自分の周囲を見渡す。


「……何も、起こらないぞ……?」


 間違いなく、『増殖』のスキルを発動したはずだ。


 しかし、特に何かが増えた様子もない。てっきり分身でもするのかと思ったんだが。


 もしかすると、これも『鑑定』や『吸収』のように特定の条件下でしか発動しないスキルなのだろうか?


 謎は深まるばかりである。


 ――まあ、分からないことを考えていても仕方がないか。


 ステータスの確認を一通り済ませた俺は、再び『変容』を発動して人型になった。


 この状態を維持するのは正直疲れるが、練習しておかないといざという時に咄嗟とっさに人の形をとれなさそうだからな。


 またナメクジの姿で人間に遭遇して、塩を振りかけられるのはごめんだ。


 だから、余程のことがない限りはこの状態でいようと思う。


 丁度目の前に、身にまとえるボロ切れや、その他いろいろな道具が落ちていることだし。


「ここに誰かいたのか……?」


 おそらく、先ほどのヘビ――ブラックサーペントの犠牲者のものだろう。近くに死体とかは見当たらないので、丸呑みされたのだと思われる。


 ……あれ? 間接的とはいえ、人食いヘビを吸収したんだから、俺も人を食ったことになるのか?


「た、頼む……俺の前には化けて出ないでくれ……!」


 俺はそう祈った後、落ちていたボロ切れを身にまとった。


 そして、残りの道具に鑑定を発動する。


『袋×1、錆びた剣×1、錆びた盾×1、ツルハシ×1、切れたロープ×1、松明×1、薬草×3』


 とりあえずどうにか使えそうなのは……袋と薬草と、剣と盾くらいだろうか。


 他の道具は既に壊れていてだめそうだ。


 俺は散らばっていた薬草を袋に詰め、剣と盾を装備して少しだけテンションを上げた後、洞窟探索を再開した。


 ――ちなみに、剣はスライムに振り下ろしたら一発で壊れたし、盾は何もしていないのに崩れ落ちた。


 この役立たずが!


 *


 それからしばらく洞窟を進んでいた俺は、いい感じに休めるスペースを発見する。


「ふぅ……ここなら安全そうだな」


 壁には俺の主食である苔が生えているし、奥の方では水が染み出している。


 小さい横穴のような場所なので、巨大生物に襲われる心配もない。


 ――今日は戦ってばかりで疲れていたところだし、ちょうどいいな。


 当分はここを拠点にしよう。


 俺はそう決めて、その場で脱力した。


 地面は硬いが、俺が柔らかいので寝心地の方は問題ない。


「へにょ〜ん」


 完全に伸びきったナメクジ人間の姿が、そこにあった。


 ここまで力を抜いてしまうと、人の形を保てているのか心配になるな。


「まあ、誰も見てないからいっか」


 しかしその時、俺の体に異変が起こる。


「うっ……?!」


 気分が悪い。


 やけに体が重いうえに、気持ち悪い……。


 まさか、毒でもくらったのか?


 俺はそう思いステータスを確認したが、特にHPが減っている様子はなかった。


「な、なんだこれ……!」

 

 そうこうしている間に視界が歪み始め、起き上がることすらままならなくなる。


 とにかく、下手に動かない方が良さそうだ。


 俺はそう思い、その場でじっとしたまま静かに目を閉じた。


 ――そして、俺は知ることとなる。


 スキル『増殖』は何の問題もなく発動していたのだと言うことを。


「うぐっ……な、なにかくるっ……?!」


 *


 …………結論から言うと、俺は産卵した。


 ガラスのように透明な膜で覆われた卵を、四つも。


 だが、中には白いもやのようなものがかかっていて、何が入っているのかは判然としない。


「はぁ……はぁ……」


 一応、今はプリティーな人間の姿に擬態してるんだぞ。


 美少女の産卵シーンとか……業が深すぎるだろ……!


 一体俺が何をしたっていうんだ!


「はぐっ……ま、まだくりゅっ!」


 ※以下、自主規制※


 *


「ひ、ひ、ふー……ひ、ひ、ふー……」


 ――結局、俺は五つの卵を産んだ。


「どうすんだこれ……?」


 光り輝く五つの卵。


 もしかして……そのうち孵るのだろうか?


 というかそもそも、どうして●尾もしていないのに卵を……?


「やっぱり、あのスキルのせいか……!」


 心当たりがあるとすれば、不発に終わったように見えた『増殖』のスキル。


 あれは、卵を産みだすスキルだったのである。


 もう二度と使わない。


 心に固く誓ったその時。


「――――っ!?」


 ――卵が孵り始めた。


「ま、まずいぞ……!」


 色々な魔物をスキルで吸収し、もはや普通のナメクジであるとは言えなくなった俺の卵。


 一体、どんな悍ましい化け物が中から生まれてくるのか知れたものではない。


 襲ってきたら殺そう。


 俺はそう決めて身構える。


 そして、一つ目の卵から“それ”が顔を出した。

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