第13話 食べられた


 なんだこの人体錬成に失敗したみたいな化け物は……! こんな……こんなはずじゃ……。


「くそ……もう一度だ……!」


 それから俺は、何度も自分の身体を人に近づけようと努力した。部位を増やしすぎると破綻するので、なるべく少ない部位で補わなければならない。


 そうなると、必然的に姿は子供に近くなってしまうな。おまけに、胸も生やせない。…畜生ォ(胸を)持って行かれた…………!!


 ――ともかく、そうして試行錯誤すること数時間。


「できた……!」


 俺は辛うじて、人の形になることができた。……2.5等身の。


 想定していたかわいいのベクトルが当初と違うが、美少女であることに変わりはない。


 これなら人間と出会っても頭から塩を振りかけられることはなさそうだ。


 フローティングアイから受け継いだまん丸の目玉、ちょっといたずらっ子っぽいゴブリンの口、触手で代用したゆるキャラみたいな手足、コボルトの毛を流用した灰色の髪、そこから飛び出すナメクジの触覚。


 我ながら完璧である。後は、もっと人型に近い奴を吸収するたびに、その都度変えていけばいい。


 強いて問題があるとすれば、全裸なことくらいか。


 俺は身にまとえるぼろ切れと、ついでに安住の地を探すために、再び洞窟探索へ繰り出すことにした。


 ちなみに、復讐の炎を燃やしながらレベルアップと吸収による能力の強化を繰り返した俺の現在のステータスは、こんな感じだ。



 *ステータス*


 名前:ジーク

 種族:ナメクジ

 性別:不明

 年齢:不明


 Lv:10

 HP:132/132

 MP:56/56

 STR:82

 INT:34

 DEF:52

 MDF:70

 スキル:鑑定、猛撃、説得、吸収、防御、寄生、変容

 耐性:水耐性、氷耐性、炎耐性、毒耐性、塩特効



『猛撃』は、オークを吸収した時に手に入った常時発動型のスキルだ。ちょっと前にスライムを一撃で粉砕したみたいに、習得しているだけで攻撃力を倍増させることができる。


 これで肉弾戦最強だぜ!


「ゲコゲコォッ!」


 と、その時、突如として洞窟の天井からふって来た何かが、俺の上にのしかかる。


 ――このままでは潰されてしまう。


 そう思った俺は、とっさにナメクジ形態へと戻り、するりとそいつの横へ逃れた。


「くそ、何事だ!?」


 俺は、突如として襲い掛かってきたそいつに『鑑定』を発動する。



 *ステータス*


 名前:不明

 種族:ビッグフロッグ

 性別:不明

 年齢:不明


 Lv:30

 HP:501/501

 MP:135/135

 STR:126

 INT:77

 DEF:113

 MDF:159

 スキル:跳躍

 耐性:水耐性



 レベル30か……くそ、ちょっと強くなって調子に乗った瞬間これだ。


 それに、ここらへんで、これほどまで高レベルなモンスターを見かけたのは初めてだぞ。


 知らぬ間に、またやばい領域に踏み込んでしまったのか……?


 俺はかつてこの洞窟に落ちてきた時に遭遇した、規格外な強さのモンスター達を思い出し、身震いする。


 ……だが、相手はレベル30。今さらその程度の相手に臆する俺ではない。


「くらえええええええ!」


 俺はナメクジ形態のまま、カエル野郎がゆっくりと伸ばしてきた長い舌をかわし、そのまま体当りをする。


 不快な声を発しながら、よろめき倒れるカエル。


 だが、当然この程度で倒せる相手ではない。


 カエルは、すぐさま体勢を立て直し、再び俺を捕食しようと舌を伸ばしてきた。


「何度やっても――――」


 先ほどと同じように攻撃をかわそうとしたその瞬間、突如として加速する舌。


「なんだとっ?!」


 俺はあっという間に捕まり、舌に巻き取られてしまった。カエルの分際でフェイントをかけてくるとは生意気な……!


「くそ……はなせ……っ!」


 徐々に迫ってくるカエルのお口。


 このままでは食べられてしま――


「パクン」


 俺はカエルに食べられた。



 残念! 私の冒険はこれで終わってしまった!


 ――GAME OVER――









「ゲコゲコ」


 カエルは満足そうに鳴いた後、ぴょんぴょんと飛び跳ねてその場から立ち去る。


 そして――


「まったく……不便な体だな。動きにくいぞ…………ゲコ」


 俺に寄生され、体を乗っ取られた。


 どうやら、最初の一撃で思った以上に体力を削ることができていたらしい。


 食われる瞬間に『寄生』を発動したら、予想以上に上手くいった。


 ビッグフロッグ、ゲットだぜ!


 こうして、レベルが30もある巨大なカエルへの寄生を成功させた俺は、調子付いて洞窟のさらに奥へと進んで行くのだった。

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