第12話 天敵登場
「おいおい、そりゃないぜライラ。みんな心配してたのに、こんな所で死んじまうなんて……! 起きろよクソエルフ!」
白いマントの男は、そう言って倒れるライラを足で蹴る。
こいつ、最低だな。俺が言えたことじゃないけど。
行動も短絡的だし、端的に言って頭が悪そうだ。知力25もなさそう。
――だが油断はできない。念のため、俺に気付いていない今のうちにこの男のステータスを覗き見ておこう。
俺は、男に対して『鑑定』を発動した。
*ステータス*
名前:ソルト・キルヴァイン
種族:ヒューマン
性別:男
年齢:不明
Lv:不明
HP:4300/4300
MP:6000/6000
STR:1910
INT:10000
DEF:1910
MDF:3000
スキル:不明
耐性:不明
は………???
なんなんだこの小学生が考えたみたいなステータスは……!
あまりにもふざけている。
人を馬鹿にしているとしか思えない!
「……ん? よく見たらまだ息してるぞ。じゃあいいや。さっさと皆の所に戻ろうぜ」
そうこうしている間に、ライラが生きていることに気付いたソルト。
気絶しているライラを小脇に抱きかかえ、その場から立ち去ろうとする。
……くそ、貴重な寄生先が回収されるのを、黙って見ていることしかできないのか…………!
悔しさでうねうねしながら、奴の背中を睨みつけたその時だった。
「あとさ、そこのお前。さっきから名乗りもせずに、黙って人のことを見てるなんて行儀が悪いぜ」
(――――――ッ!)
最悪だ。ライラを奪われただけでなく、俺の存在まで感づかれていた。
「何とか言ったらどうなんだ? コソコソしやがってよォ」
ソルトはそう言いながら、俺が身をひそめている岩まで近づいてくる。
俺のとれる選択肢は二つ、名乗り出て敵意がないことを伝えるか、一瞬の隙をついて逃げ出すか。
俺は――
「…………って、ただのナメクジかよ。ヒトの気配がしたんだが」
第三の選択肢、『一般のナメクジに擬態してその場を切り抜ける』を選んだ。
後は運を天に任せて祈るだけだ。
頼む、何も起きないでくれ。
――サラサラサラ
(…………………………)
「ほら、塩だぞ。たーんとお食べ」
(ぐああああああぁぁああああああああああああああああッッ!)
「おお、苦しんでる苦しんでる!」
ああ、知ってたさ。どうせコイツならそうしてくると思っていたさ。
この下衆野郎が!
「それじゃあな、強く生きろよナメクジくん!」
そう言って、好きなだけ塩を振りかけた後で俺の前から立ち去るソルト。
――殺してやる。絶対に殺してやるッ!
(ぐっ、がはぁっ!)
だがその前に、早く水場を見つけなければ干からびて死んでしまう。
俺はスキル『変容』を発動し、全ての部位を使って全力で洞窟内を駆け回る。
(ぐああぁっ、急げぇっ!)
そして、どうにか少し深い水たまりを見つけ出し、その中へ飛び込んだ。
(ごぼぼぼぼぼっ!? がはぁっ!)
どうにか塩を洗い流し、水分を吸収した俺は、
(ソルト……キルヴァイン……! 顔と名前は……覚えたぞ……)
一度ならず、二度までもこの俺に塩を振りかけやがって……!
(あいつは……俺が絶対に殺す!)
俺は、心に固く誓った。
かくして、打倒ソルトを最終目標としたレベル上げの日々が始まったのである。
*
――辛酸……というか塩をなめさせられてからだいたい一週間後。
「くらええええええええええええっ!」
俺は、自分より二回りくらい大きいスライムに体当たりし、一撃で粉砕する。
それと同時に、レベルアップのファンファーレが脳内で鳴り響いた。
――ゴブリン、なんか芋虫みたいな奴、ミミズみたいな奴、洞窟に迷い込んできた動物、オーク、コボルト、鼻の形をした化け物……etc.
この一週間で撃破し、吸収してきた魔物の数は、もはや数えきれない。
ちなみに、洞窟に住み着いていたゴブリンを吸収して、「口」を獲得したので、俺はようやく普通に喋れるようになっている。
ありがとうゴブリン。
――というか、今まで獲得してきた部位を全て活用すれば、かなり人間に近い姿になることもできる……はずだ!
試しにやってみるか。
……どうせなら、やっぱり同情を引きやすい姿の方がいいよな。
仮に化けナメクジだと人間にばれたとして、おっさんの姿で「殺さないでくれぇ……!」とか言うよりも、美少女の姿で「殺さないでぇ……!」って命乞いする方が生存率高そうだし。
うん、それでいこう。
「なってやるぜ。かわいい美少女によォッ!!!!」
俺は全力で変容のスキルを発動した。
頭! 目! 口! 鼻! 耳! 髪! 胴体! 腕! 手! 足! あと胸!
大体こんな感じだろう。
ちなみに、『変容』のスキルを使っても、ナメクジの身体そのものを変化させることはできない。
ナメクジの身体に、さらに色々な部位を生やすことができるといった感じだ。
なので、現在ナメクジボディは頭皮と髪の毛の間に隠してある。頭から触覚が飛び出てしまったが、たぶん可愛いから問題ないだろう。
……さてさて、これでいい感じの美少女が出来上がっただろうか。やっぱり、どうせ人になるなら美少女がいいよね! 美少女最高!
俺は、そんなことを考えながら近くの水たまりを覗き込む。
――そこにあったのは、人の形すらしていない肉の塊だった。
「おげええええええええええええええっ!」
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