第11話 vs魔術師ライラ


「それにしてもさっきの子……どこへ行っちゃったのかしら。無事だといいんだけど……」


 ……ついさっきまで無事どころかピンピンしていたが、たった今お前に殺されそうなせいで危機的状況に陥ってるな。


「まったく……みんなとはぐれるし、あの子もいなくなっちゃったし、変な魔物に遭遇するし、今日は最悪ね」


 ライラは不機嫌そうにしながら、俺に向かって杖を構える。


 絶体絶命のピンチ!


「サンダーボルトッ!」

(ぐわあああああああああああっ!)


 紡がれる詠唱、絶叫する俺。


 ――しかし、ライラの杖から魔法が放たれることは無かった。


「あ、あれ……?」


 魔法が使えず、首をかしげるライラ。


 そういえば、俺がガス欠にしたんだった。


「嘘でしょ……? 魔力切れ……? それに今の悲鳴はもしかして……あの子がどこかで魔物に襲われてる……!?」


 青ざめた顔で呟くライラ。


 独り言の多い奴だ。


(違う)

「え…………?」

(だから、お前の目の前にいるナメクジが、お前の探しているあの子なんだよ)


 よく考えたら、わざわざ戦わなくても、話し合いで解決すればいい。


 相手は人間の倍以上生きているエルフだし、話せば分かってくれるはずだ。


 そう思った俺は、ライラの脳内に直接語りかける。


「その声……まさか……お前があの子を喰らったの?!」 

(なんでそうなるんだよ)

「そして、その血も乾かぬうちに、あどけない少年に声だけなりすまし、私の前へ……ッ!」

(想像力が豊か過ぎるだろ)


 だめだ。こいつ、長く生きすぎて頭が硬くなってるタイプのポンコツエルフだ……。


「嘘をつかないで! くっ、名も知らぬ少年の仇よ! 覚悟しなさいっ!」

(いや、だから俺は)

「きゃあああっ! 来るな来るな来るなこの化け物っ!」


 俺が少し歩み寄っただけで、激しく取り乱すライラ。甚だ心外である。


 でも、何か色々と勘違いして錯乱してるし、これはもしかして先制攻撃のチャンスなんじゃないか?


 話し合いが決裂したのであれば、戦うしかないわけだし。


 そう思った俺は『変容』のスキルを発動し、羽やら触腕やら脚やらを生やしてライラに飛び掛かる。


 今の俺ができる、全身全霊の攻撃だ。


 くらええええええええええええええええええッ!


 ――ぺちょ。


 俺の渾身の一撃は、ライラの顔面にクリーンヒット……したのだが、一切ダメージを与えることができなかった。


 所詮はナメクジ。いくら強くなったところでこの程度である。


「い、いやああああああああああああああああああああああああッ!!」


 しかし、なぜかライラは絶叫し、半狂乱になって辺りを走り回る。


 ……まあ、単純に俺のビジュアルがアレだからだろうな。


 ナメクジの身体に蜘蛛の足、ぬらぬらした触手、蝙蝠の羽、そんな形状をした化け物が粘液を纏いながら顔に張り付けば、俺だって発狂する。


「いやだいやだいやだああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

(お、おい、そんなに走ると――)

「きゃぁッ!」


 前が見えていないのにも関わらず走り回ったライラは、足元にあった小石に躓いてよろめく。


「うぐっ!」


 そして、滑って転んで頭を打ち気絶した。


 可哀そうに。


(だ、大丈夫か……?)


 俺はライラの顔を覗き込みながら問いかけるが、返事はない。


 この調子だと、しばらく目覚めることはなさそうだ。


(ククク、どうやら大丈夫じゃないみたいだな……!)


 ――だが、こうして俺は再びライラに寄生することができるようになった。


 ラッキーだぜ。


 さてと、もたもたしてないで早く寄生しよっと♪


 そう思いながら、ライラに近づいたその時だった。


(――――――ッ?!)


 背後から感じる、圧倒的な気迫と、陰湿な殺気。


 俺は直感した。


 ――俺に塩を振りかけ、その上ツムリンの命を奪った奴が、すぐ近くに迫っている。


 何故かはわからないが、俺のナメクジとしての本能がそう告げていた。


 ――このままでは、確実に殺されてしまう。


 俺は半ば反射的に、近くの岩陰に身を隠す。




「まったく、探したぜライラ。さっきの悲鳴は一体……」


 それから程なくして、ヤツは姿を現した。


「って、もしかして死んでるのか?」

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