第9話 スキル『寄生』
(うおおおおおおお!戻れ戻れ戻れ戻れ戻れッッ!!!!!)
俺はスライムボディでポヨンポヨンと跳ねまわりながらそう念じる。
(戻れっ!元に戻るんだ俺の体よっ!)
だが、特に効果はなかった。
一体どうすれば、寄生するのを止めることができるんだ……?
スキルも使えないし、無駄に体がでかくなったせいで
それからしばらくの間、俺は元の体に戻る方法を模索し続けた。
……だが、なんてことはない。
スキルの発動と同じ要領で、『解除』と念じれば良いだけだったのだ。
焦って跳ねまわった分の時間を返して欲しい。
――しかし、これで完全に『寄生』のスキルをマスターした。
このスキルさえあれば、強そうなやつに体を乗り換えて暴れまわることができるぞ。
どうせ寄生するならスライムなんかじゃなくて、もっと動きやすそうなやつとか、強そうなやつとかにするべきだ。
(なんかいい感じに死にかけてる強そうなモンスター、そこら辺に落ちてないかなー)
俺はそんな都合の良いことを考えながら、洞窟を彷徨い歩く。
まあ、世の中そう甘くはないがな。
(うそ……だろ……)
――そう思ってたらあっさり見つかった。
と言っても、倒れていたのはモンスターではない。人間だ。
足を岩に挟まれて動けなくなっている人間を見つけたのだ。
歳はおそらく二十前後で、長い金髪に整った顔立ちをしている。
そして、彼女の近くには華美な装飾が施された杖が落ちていた。
魔術師か何かなのだろうか……?
色々疑問は尽きないが、ステータスを確認した方が手っ取り早いことに気付いた。
俺は『鑑定』を発動する。
*ステータス*
名前:ライラ・エアルドレッド
種族:エルフ
性別:女性
年齢:238歳
Lv:25
HP:30/142
MP:78/221
STR:52
INT:187
DEF:82
MDF:92
スキル:詠唱、高速詠唱、マナカット、ファイアボールLv5、サンダーボルトLv5、アイシクルランスLv5、ヒーリングLv1、トーチ
耐性:氷耐性、炎耐性、雷耐性
人間じゃなかった。しかも、思った以上にお年を召されていた。しかも、種族がエルフだって……?
なるほど、これがエルフか。よく見たら耳も尖ってるし、すげー! 初めて生で見た! 生エルフだ!
――などと感動している場合ではない。
初めてファンタジーの定番種族、『エルフ』と遭遇し、その姿を見て、少しだけテンションがおかしくなっているようだ。
どうかご容赦いただきたい。
(お、おいあんた。大丈夫か?)
俺は試しに、倒れているエルフに向かってテレパシーを試みる。果たして、ツムリン以外にこれが通用するのだろうか。
「そこに……だれかいるの……?」
すると、驚いたことに反応があった。
(随分とひどい有様だが、一体何があったんだ?)
「仲間とはぐれてしまったの……それで、迷っているうちに岩が落ちてきて……こんなことに」
(ふーん。大変なんだな)
「私は真面目に話しているのよ!」
(ごめんなさい)
怒られてしまった。確かに、さっきの俺の返事には緊張感というものが一切感じられなかったな。
一度死んだせいで、死にかけの人間を見てもそれほど危機感を抱かなくなってしまったのだろうか?
そんなことを考えたが、ツムリンの時はとても悲しかったのでおそらく違うだろう。
「あなた……声からしてまだ子供ね。どうしてこんな危ない場所に居るの?」
すると、死にかけエルフのライラが俺にそう言ってきた。
……あまり意識してこなかったが、俺の声もツムリンみたいにチャーミングな感じに聞こえているのかもしれない。
(残念ながら、俺は子供じゃない)
「子供は皆そう言うのよ」
本当に違うんだが……?
まぁ、238歳のエルフからしてみれば、俺も子供ということになるのか?
……今はそんなことを考えている場合じゃないな。
(……こっちにも色々と事情があるんだ。――それよりあんた、目が見えないのか?)
「さっき、戦闘中に松明を落としてしまったの。……貴方の方こそ、よく私が見えるわね」
言われてみれば、この洞窟はかなり暗い。長いこと生活していたおかげで、目が慣れてしまったのかもしれない。
俺が何も言わずにいると、ライラが続けた。
「……訳ありのようだから深く詮索はしないけど、よかったら助けを呼んできてもらえないかしら。このままだと私、死んでしまうわ」
(だめ)
「…………………は?」
こいつの着ているローブ……ツムリンを殺した奴らと同じ紋章が描かれている。
つまり、奴らの仲間だということだ。
ツムリンの仇を、わざわざ助けてやる義理はない。
「ふざけないでちょうだい! 一体どういうつもり?」
(あんたの身体は、今から俺に乗っ取られるんだよ! ぐへへ……)
「い、いきなり何を言って――」
俺はライラに『寄生』のスキルを発動した。
「いやあああああああああああああああああああッ!!」
洞窟内に、ライラの断末魔が響き渡る。
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