第8話 ナメクジvsスライム
(ぐぬぬ……)
俺はスライム達とにらみ合う。向こうに目が見当たらないので、本当ににらみ合っているのかは知らない。
(そこから一歩でも俺に近づいてきてみろ……ぶちのめすぞ……!)
そんな俺の威嚇には一切構わず、スライムどもは体当たりを繰り出してきた。
(ぐはぁッ!? おごっ! ぐええええッ!)
囲まれたままボコボコの袋叩きにされ、俺は6ダメージくらい受ける。
基本的に、スライムも俺も1ダメージ程度しか出せない。なので、殴り合うと体力の多いスライムの方に分があるのだ。
そのうえ相手の数が多いとなれば、間違いなく俺が死ぬ。
こんな風に冷静に分析しているが、めちゃくちゃヤバい状況だということだ。
(くそ……何かこの状況を脱却する術はないのか……!)
そうこうしている間にも、攻撃を受け続け、どんどん消耗していく俺。こういう状況だとステータスを確認する余裕がないので不便だ。
どのくらいHPが減っているのか、知るすべがない。
(あ……もう無理……走馬灯が見えてきた……)
窮地に立たされ、脳内でこっちの世界の出来事が矢継ぎ早に流れていく。
(……ん?)
その時、俺はツムリンから『防御』という名前のスキルを受け継いでいたことを思い出した。
走馬灯のおかげである。
(こうなったら一か八かだ!)
俺は咄嗟にそのスキルを発動した。
――すると、俺に体当たりしてきたスライムどもが、ぽよよんと跳ね返される。
スライムからの攻撃を完全に防いだのである。
(今だッ!)
千載一遇のチャンス。俺はその隙に、スライムに体当たりをし、一匹ずつ撃破していく。
四匹倒したところで、恐れをなした他の二匹が逃げ出し、俺は見事スライムに勝利したのだった。
(ふぅ……どうにか生き残ったぞ……)
――どうやら、またツムリンに助けられてしまったらしい。
そんなことを思い、干渉に浸っていると、脳内でファンファーレが鳴り響いた。
(お、レベルアップか)
俺は心の中でガッツポーズをしつつ、スライムを一匹吸収する。
――そういえば、能力の変化を確認していなかった。
これでは、レベルアップで上がった能力と、スライムを吸収したことで上がった能力がごちゃごちゃになって分からなくなってしまう。
……『吸収』のスキルに関しては、まだ分かっていないことも多いし、もっと慎重に検証すべきなのに……!
俺は慌てて自分のステータスを確認した。
*ステータス*
名前:ジーク
種族:ナメクジ
性別:不明
年齢:不明
Lv:4
HP:2/27
MP:6/6
STR:8
INT:16
DEF:10
MDF:15
スキル:鑑定、説得、吸収、防御、寄生
耐性:水耐性、塩特効
(なるほど……)
かなり強くなった気もするが、少し前にあんなもの(※第6話参照)を見たせいで素直に喜べない。
(……まあ、他の奴も吸収してみるか……)
俺はそう思い直し、残った二匹のスライムを吸収していく。
……もう一匹は、とある実験をするためにとっておいた。
――だが、スライムを二匹吸収しても特にステータスに変化は見られない。
どうやら、同じ種族をたくさん吸収しても意味がないらしい。
強くなりたければ、レベルを上げるか、色々な種類のモンスターを一匹ずつ吸収していくしか道はないようだ。
かくして、俺のザコ狩り作戦は失敗に終わったのである。
(世の中そう上手くはいかないか……)
おお神よ、異世界なんだからもっと俺に優しくしてくれ。じゃないと殺すぞ。
(……さて)
軽く愚痴をこぼして満足したところで、残った最後の一匹のスライムの方へ目を向ける。
そして、動かなくなりどろどろに溶けたそのスライムへゆっくりと近づき、スキル『寄生』を発動した。
(――うおっ?!)
刹那、目の前が真っ白になり俺は思わず身をよじる。
(うーん……?)
……次に気が付いたとき、俺はスライムになっていた。
なるほど、やはりそうだ。ツムリンから受け継いだ『寄生』というスキルは、文字通り寄生して相手の体を乗っ取るスキルだったのである。
実は以前にも何度か試していたが、元気なスライム相手には通用しなかった。このスキルも、『吸収』と同様に相手を弱らせてから発動する必要があるのだろう。
ちなみに、寄生状態の時にステータスを表示するとこうなる。
*ステータス*
名前:ジーク
種族:スライム(ナメクジ)
性別:オス
年齢:32歳
Lv:6
HP:27/27
MP:3/3
STR:5
INT:11
DEF:12
MDF:9
スキル:伸びる
耐性:塩特効
(うわ、このスライム前世の俺と同い年だ……)
どうでもいいことは考えないようにして、俺はステータスを観察する。
…………どうやら、HP以外の能力値は宿主に依存するらしい。それと、寄生したところで塩が弱点であることに変化はないようだ。
正直言って弱体化しているし、使いどころはよく考えた方が良さそうだな。
(さてと、元の体に戻るか……)
しかしその時、俺は重大な事実に気付いてしまった。
(…………あれ? ところで、どうやったら寄生をやめられるんだ……?)
当然、俺のそんな疑問に答えてくれる奴はいない。
(うそだろ……?)
かくして、俺はナメクジからスライムにランクアップ? したのだった。
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