一章 迷宮の覇者、ナメクジ

第7話 魔窟


「キシャアアアアアッ!!!」


 前回までのあらすじ、やばい蜘蛛に襲われて絶体絶命のピンチ!


 はたして俺の運命やいかに?!


 あらすじ終了。




(拝啓、天国のツムリンへ。俺ももうすぐそっちへ逝きます)


 圧倒的強者を前に全てを諦めた俺は、死んで蜘蛛にムシャムシャされる覚悟を決める。


 というか、そもそも俺って天国に逝けるのか……?


 地獄行き……あるいはまた異世界転生することなんかもあり得る……?

 

 そんな疑問をよそに、眼前の化け蜘蛛は叫びながら襲いかかってくる。


「キショエエエエエエェェェェッ!」

(やめてくれええええええええええええええええええ!)


 かくして俺は生命活動を停止…死んだのだ。







 ――とはならなかった。


「キイイイイイイイイッ!」

「キシャシャアアアアッ!」


 蜘蛛が飛び上がった瞬間、洞窟の天井付近を飛んでいた蝙蝠が突如として急降下してきたのだ。


 蜘蛛は捕らえられ、天高く持ち上げられる。


 そして、更にそこへ無数の蝙蝠が集まってきて、化け蜘蛛はどこかへと運ばれていった。


 おそらく、あの蜘蛛はあのまま蝙蝠たちの餌になるのだろう。


 俺は食物連鎖に救われたのである。


(ひえぇ……)


 あまりにも壮絶な光景を目の当たりにしたせいで、恐怖のあまりしばらくその場から動くことが出来なかった。


(もうやだぁ……お家帰るぅ……)


 幼児退行した俺は、意味のわからないことを思いながら、みじめに地面を這いずり回る。


(何故だ……どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……!)


 そうして気が遠くなるくらい長い間、息を潜めながら洞窟の中を彷徨っていると、遠くの方から光が差し込んでいることに気付いた。


(出口だ……!)


 そう直感した俺は、光の下へ向かってノロノロと走る。


 ――もうこんな場所はこりごりだ!


 だがしかし、到着したそこは出口などではなく、単に天井に穴が空いているだけだった。


(…………それで、俺はどうやってあそこから外に出ればいいんだ……?)


 無論、ナメクジの貧弱な身体でこの大穴を登っていくことはできない。


 結局、全て振り出しに戻ったのである。


 泣きたい。


 *


 ――ぐちゅっ、ぐちゅっ


 洞窟に閉じ込められてから、四日ほど経った。穴から差し込んでくる光のおかげで、おおよその時間は把握できたので間違っていないはずだ。


 ――ぴちゃぴちゃ


 俺はこの四日の間、岩に生えた苔をかじり、地面から染み出してくる水を啜って生活してきた。


 ――ぐちょ、びちょ


 こんな高レベルのモンスターがうろつく場所を、俺のような貧弱ナメクジがうろついていたらあっという間に捕食されてしまいそうなものだが、運よく生き残っている。


 ――べちょっ、ぐちゃぁ


 というか、不思議なことに穴の周辺にいるモンスターどもはレベルが低いのだ。


 俺は、先ほどから喧しい音を立てて周りを跳ねまわっているスライムに『鑑定』を発動した。


 *ステータス*


 名前:不明

 種族:スライム

 性別:オス

 年齢:5歳


 Lv:6

 HP:21/21

 MP:3/3

 STR:5

 INT:11

 DEF:12

 MDF:9

 スキル:不明

 耐性:不明



 ……見ての通り、少し頑張れば倒すことが出来そうだ。


 昨日試しに挑んでみたらボコボコにされて酷い目にあったけど。


 というわけなので、当分は大人しく苔を食って命を繋ぎ、レベルが十分に上がったタイミングでスライムに勝負を挑む。


 そして、見事打ち倒し、死んだスライムを吸収して更に強くなろうというのが俺の立てた生存戦略である。


 名付けて、ザコ狩り作戦!


 それまで待っていろ、ザコのスライムめ!


 ――びちゃ、びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ


 そんなことを考えながらほくそ笑んでいると、身の回りが喧しくなってくる。


 一体何事だ?


(……………………!)


 周囲を見回すと、そこにはスライムの大群があった。


 どうやら、俺が妄想している間に取り囲まれていたらしい。


(……うそだろ……?)


 先ほどからスライムが一匹、執拗に俺の周りを飛び跳ねていたのは、仲間を呼ぶためだったようだ。


 相手の数は六匹、対してこちらは一人。


 さすがに今回は近くにコウモリも見当たらないし、前のようなラッキーを期待することもできない。


 一対一でも厳しい相手が六体も。


 かくして、絶望的な戦いが再び幕を開けたのである。


(どうしていつもこうなるんだよ!?)

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