第6話 スキル『吸収』
ツムリンが死んでしまった。
……とはいえ、数日の間行動を共にした、ただのカタツムリが死んだだけだ。
それなのに、なぜこんなにも悲しい気持ちになるのだろうか。
ツムリンがこの世界で唯一分かり合える相手だったから?
(…………………………)
一つだけ確かな事実は、この体では泣くことすら出来ないということだけだ。
こうして、俺はまた一人になった。
…………ナメクジの数え方がそれで合っているのかなどという、野暮なツッコミはなしだ。
とにかく、ツムリンを弔ってやらないとな……。
俺は亡骸を埋めるために、そっとツムリンの体へ触れる。
――しかしその時、突如として俺とツムリンの体が光り始めた。
(な、何だこれ?!)
ツムリンの体は光に包まれたまま消滅して、俺の中に何かが流れ込んでくる感じがした。
――スキル『吸収』が発動したのだ。
俺は、直感的にそう理解した。
(…………?)
だが、結局ツムリンが姿を消しただけで、何かが変わった様子はない。
(……ステータスか?)
ふとそう思った俺は、すかさず自分のステータスを確認した。
*ステータス*
名前:ジーク
種族:ナメクジ
性別:不明
年齢:不明
Lv:3
HP:16/16
MP:5/5
STR:5
INT:10
DEF:7
MDF:11
スキル:鑑定、説得、吸収、防御、寄生
耐性:水耐性、塩特効
(………………!)
明らかに強化されている。
レベル以外のすべてのステータスに、ツムリンの能力値が加算されているようだ。
つまり、これが『吸収』の効果。
死んでしまった相手を吸収すれば、能力値を底上げすることができるということだろう。
俺はそう理解した。
それと同時に、突如として地面が大きく揺れ始める。
(な、何事だ?!)
周囲を見回すと、前方から大水が押し寄せて来ているのが目に入った。
そういえば、昨晩大雨が降った。それで川が氾濫したのだ。
(う、うわああああああああああああああああああっ!)
なすすべなく、俺は大量の水に巻き込まれどこかへ流されてしまうのだった。
*
(う……ぐぅ…………)
気が付くと、俺は真っ暗闇の中に居た。
周りからは、水滴の落ちる音や、キィキィという不気味な鳴き声が聞こえてくる。
どうやら、一命は取り留めたらしい。
ステータスを開いて確認してみると、体力が3にまで減っていた。
おそらく、ツムリンを吸収していなければ死んでいただろう。
(まったく……最後まで……ツムリンには助けられてばかりだな……)
俺は心の中でツムリンに感謝する。
もう俺一人の体ではないんだから、迂闊な行動をして死んでしまわないようにしないとな……。
(ところで、ここはどこだ…………?)
しばらくじっとしていると、次第に目が慣れてくる。
どうやら、洞窟の中まで流されてしまったらしい。
壁や天井付近を、
襲い掛かってくる様子はないが、端的に言ってキモい。
……だが、ここなら俺に塩をかけてくる人間も居なさそうだし、身をひそめる場所としては最適かもしれない。
俺はポジティブに考えることにした。
(……とりあえずは、現状の把握からだな……)
俺はひとまず、蝙蝠や蜘蛛のステータスをスキルで鑑定し、倒せる相手なのか確認することにした。
ワンチャン倒すことができれば、吸収して更に強くなれるからだ。
そうして強くなって……とりあえずはツムリンのを殺した奴らに復讐することを目的に生きよう。
怠惰な俺が主体的に生きる為には、人生の目標が必要だからな。
俺は、近くを飛んでいた蝙蝠に向かって、心の中で『鑑定』のスキルを発動するよう念じる。
*ステータス*
名前:不明
種族:エルダーヴァンパイア
性別:不明
年齢:不明
Lv:不明
HP:2300/2300
MP:1300/1300
STR:110
INT:565
DEF:560
MDF:1300
スキル:不明
耐性:不明
(……なるほどな)
俺は何も見なかったことにして、蜘蛛のほうを鑑定する。
*ステータス*
名前:不明
種族:アラクネオリジン
性別:不明
年齢:不明
Lv:不明
HP:4500/4500
MP:300/300
STR:810
INT:220
DEF:900
MDF:1500
スキル:不明
耐性:不明
(………………しゅごおい)
それからも、何度か鑑定を試みたが、似たような数値が表示されるだけだった。
(俺の千倍くらい強いじゃん…………)
圧倒的能力差を見せつけられ、俺は塩をかけられたみたいに縮み上がる。
もし何らかの理由で、やつらに目を付けられたらひとたまりもないだろう。
(た、たしゅけて……)
俺は奴らに決して気付かれないように、ゆっくりとその場から逃げ出した。
ぬめぬめボディもプルプル震えている。
こんな場所に居られるか! 俺は今すぐ脱出させてもらうぞ!
……とんでもないステータスを見せつけられ、すっかり戦意を喪失していた俺は、必死の思いで出口を探して洞窟の中を這いずり回る。
だがその時。
――ぼと。
嫌な音と共に、何かが俺の前に降ってくる。
(…………え?)
困惑する俺をよそに、八本の足を使ってゆっくりと俺の方へ向きを変えるそれ。
目の前に立ちふさがっていたのは、茶色い体毛と、無数の赤い目を持つ、例の蜘蛛。
蜘蛛は、明らかに俺を餌だと認識し、ロックオンしている。
(……あ、おわった)
かくして、絶望的な戦いが幕を開けたのだった。
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