第5話 カタツムリ+塩=死


(いやはや、困ったことになったな……)


 俺は心の中でそんなことを呟きながら、湿った落ち葉の上を進んで行く。


(おーい。ツムリーン。いないのかー?)


 すでに何度もそう呼びかけているが、返事が返ってくる様子はない。


 どうやら完全にツムリンとはぐれてしまったらしい。


 かれこれ、一日近くツムリンのことを探し回っているが見つからない。


 一体どうしたものか……。


 途方に暮れていたその時だった。


「たす……けて……」


 近くからツムリンが助けを求める声が聞こえてくる。


(ツムリン!)


 俺は大急ぎで、声のした方向へ走った。


 ――ナメクジ基準で大急ぎなので、実際はとんでもなく遅いことは言うまでもない。


(………………!)


 それからしばらくして、俺はようやくツムリンを発見することが出来た。


 ――だがしかし、困ったことにツムリンの近くには、前に俺に塩をかけてきやがった白いマントの冒険者が居た。


(ま、まさか…………!)


 しかも、ちょうどツムリンから遠ざかっていくところだった。


 嫌な予感がした俺は、急いでツムリンの近くへ這い寄る。


 ――そこには、萎れ果てたたツムリンの姿があった。


 ツムリンまで、奴に塩をふりかけられてしまったのだ。


(ツムリン! 大丈夫か!?)


 どうやらまだ辛うじて息はあるようだ。


 ツムリンは、体を起こして俺の呼びかけに答える。


「にんげんに……見つかっちゃいました…………」

(し、しっかりしろ! どうすればお前を助けられるんだ!?)

「もう…………無理みたいです……自分の体のことですから……わかります……」


 俺の問いかけに対し、ツムリンはそう答える。


(諦めるんじゃない! 子孫を残すんだろ!!)


 俺はそう言って励ましながら、ツムリンを救う方法がないか考える。


 ……だが、俺が助けられた時のことを思えば、考えるまでもなかった。


(――水か? 水をかければ良いんだな!? 少し待ってろ!)


 周囲にツムリンを浸せるくらいの水たまりがないか探す。


 ここら辺はジメジメしているから、すぐに見つかるはずだ。


「う……ぐ……っ」

(しっかりするんだツムリン!)


 ひとまず応急処置として、周りの水を必死にかき集めてツムリンにかける。


 しかしそれでも、あまり効果があったようには見えない。


 ツムリンは見る見るうちに弱っていく。


 ――そうだ、ツムリンのステータスを見ればいい。そうしたら、何か対策が出来るかもしれない。


 俺は、藁にもすがる思いで、ツムリンに向かって『鑑定』を発動した。


 *ステータス*


 名前:ツムリン

 種族:カタツムリ

 性別:不明

 年齢:8歳


 Lv:7

 HP:0/9

 MP:0/5

 STR:2

 INT:8

 DEF:5

 MDF:6


 ****



(そんな…………)


 ツムリンの体力はすでに尽きていた。ステータスを見たことで、かえって残酷な現実を突きつけられてしまう。


「また……見たんですね……。ナメクジさんは破廉恥です……」

(ぜ、ゼロになったHPを、回復させる方法はないのか……?)


 ツムリンが俺の問いかけに答えることはなかった。


(おいツムリン!)


 その代わりに、俺の方を見て言う。


「……そうだ……名前、考えたんですよ……」

(え……?)

「ナメクジさんの……名前……私もこっそり考えちゃいました……」

(そ、その話はツムリンが復活してからでいいだろ――)

「じーく……ナメクジの、ジーク……かっこいいでしょ……?」


 俺の言葉も聞かずに、ツムリンはそう続けた。


「もしよければ……この名前を使ってね……」

(ああ……わかった。その名前、大切にする……だからもう喋るな…………っ!)

「気に入ってもらえて……よかった……この世界に生きた証は……のこせました」


 最後にそう言い残して、更に萎れていくツムリン。


(だ、だめだ、しっかりしろツムリンっ!)

「でも……ほんとは……しそん……のこしたかった……なぁ……」

(ツムリンッ!)

「………………」

(ツムリーーーンッ!)


 それ以降、俺がいくら呼びかけてもツムリンが動くことはなかった。


 死んでしまったのだ。

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