第4話 スキル『鑑定』


 ツムリンと行動を共にするようになってから、三日ほど経った。


 経験値は歩いたり食事をしたりするだけでも少しずつ溜まっていくらしく、レベルが3になった現在の俺のステータスはこんな感じだ。


 *ステータス*


 名前:なし

 種族:ナメクジ

 性別:不明

 年齢:不明


 Lv:3

 HP:7/7

 MP:0

 STR:3

 INT:2

 DEF:2

 MDF:5

 スキル:鑑定、説得、吸収

 耐性:水耐性、塩特効



 はい弱い。とても弱い。


 ちなみに、新しく覚えたスキル『吸収』がどのような効果を持つものなのかは、ツムリンも知らないらしい。


 ツムリンは俺のレベルアップを祝福してくれたが、この調子ではたとえレベルがいくつになろうとも、ナメクジ並みの強さで終わってしまう気がする。


 正直、かなり絶望的だ。


 こんな調子で本当に生きていけるのか?


「よいしょ……おいしょ……」


 ……ちなみに、ツムリンは未だにステータスを見せてくれない。


 ――だが、俺は発見してしまった。


 他のヤツのステータスを、こっそりのぞき見する方法を。


「うんしょ……うんしょ……」


 俺は、少し先を必死に進んでいるツムリンの方へ目を向ける。


 そして、スキル『鑑定』を発動するよう頭の中で念じた。


 *ステータス*


 名前:ツムリン

 種族:カタツムリ

 性別:不明

 年齢:ヒミツ


 Lv:7

 HP:9/9

 MP:5/5

 STR:2

 INT:8

 DEF:5

 MDF:6

 スキル:防御、寄生、水鉄砲、大精霊の加護

 耐性:水耐性、塩特効



 この通り、『鑑定』のスキルは相手のステータスを覗き見ることもできるのだ。

 

 だがしかし、レベルが7になっても能力値は全部一桁なんだな………………なんかごめん、ツムリン。


 ……でも『大精霊の加護』とやらはなんだか強そうだ。


「……あれれ、そんな所で立ち止まってどうしたんですかナメクジさん?」


 俺がそんなことを考えていると、ツムリンが問いかけてきた。


(な、なんでもない。先を急ごうか)


 俺は慌てて取り繕う。


「そうですね。大精霊様のところまであと半分くらいですし!」

(あと半分か…………)


 長いな。正直、こんなに歩き続けたのは初めてだ。


 ……こんなに進まないのも初めてだ。


(ところでツムリン)

「はい、どうかしましたか?」

(大精霊様が住んでいる泉とやらは、どんな場所なんだ?)

「そういえば話してませんでしたね。いい質問ですよナメクジさん!!!」


 ツムリンはそう言って、触手をわきわきと動かした。


 質問しただけで褒められるとは……。


 悪い気はしないな!


「――大精霊様の泉は、この近くに存在するとある迷宮の奥深く、魔術的に隠された道の先にあるんです」

(ふーん)

「…………えっと、他に何か聞きたいことはありますか?」


 やばい、めちゃくちゃ適当な返事だったせいでツムリンが不安そうにしている。


(そ……そうだな……『大精霊の加護』ってスキルは、一体どんな効果があるんだ?)

「えっ」

(ん?)

「ど、どうして、私のスキルを知ってるんですか?」

(あ……)

「の、のぞき見したんですねっ!」


 しまった、焦るあまりステータスの覗き見がツムリンにばれてしまった。


(わ、わるい、『鑑定』のスキルでステータスが見れたからつい……)

「う、うえぇぇぇんっ! もうお嫁にいけないっ!」

(待ってくれツムリン! カタツムリに嫁入りなんて概念ないだろ!)


 俺は、叫びながら逃げ出したツムリンの後を追いかける。


「私を見ないでくださいぃぃぃぃっ! 恥ずかしすぎますぅぅぅぅぅっ!」

(ちょっとステータスを見たくらい、なんだって言うんだよ?!)


 こういう時だけは、やたらと早い。


 俺とツムリンの距離は、みるみるうちに開いていく。


(く、くそ……待ってくれ…………!)


 かくして、俺はツムリンに置いていかれてしまったのだった。





 ――元気なツムリンの姿を見たのは、この時が最後だ。

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