第27話 無条件降伏

マスターの顔が真剣になる。皆にも緊張が走る。


その時、スマホが鳴った。あのスマホからだ。大臣だ。マスターが出て話しをている。そして、振り返る。


「来たぞ。今度は大物だ。『キング』王と名乗ったそうだ……そして、無条件降伏を言い出されたそうだ」


「そんな勝手な事‥‥‥」

と、智子が言う。そこで、再びマスターが言う。


「今度来る奴は軍隊だ。今までとは違う。思い出さないか? 俺達は誰に殺された?」


全員が記憶を辿る。建物は壊され、焼き払われた。剣を振るう者もいたがその殆どは力で操られ無気力にされ所を殺された。精神攻撃に特化した攻撃を得意とするようだ。それに振り回されていた。皆が記憶を辿って思い出したのを確認したマスターは、その後に起こった悲惨な出来事の場面を皆に伝える。


「これから、君達が知らない事実を見せよう。これは君達が倒された後の出来事だ」

マスターは目を閉じ皆に念を送る‥‥‥。


……ある映像が見えてくる……それは、怯えながら集まる沢山の人々。そこで集まった人々達が次々に殺されていく……そんな場面を。


「これは……こんな事になっていたのか! どうしてマスターがこれを知っている?」


 皆がマスターを見る。


「俺の父親は城のお抱えの担当医師だった。俺は当時子供だったが、父からしっかり教えは受けていて、父の助手としてやっていた。あの日ティアーヌ姫が重傷を負ったと連絡を受けて駆け付けた。だが、姫は死んだ。そして英雄は生きる亡霊となって彷徨う。そんな姿を蔑んで見ていた人々、そして、英雄は倒された……しばらくして、同じように降伏せよと言われた。英雄は居ない、兵士も全滅した。だから皆その言葉に従うしかなかった。集まるしかなかったのだ。が、結局集まった所で皆殺しにされたんだ」


マスターはふうと息を吐いた後、続けて話す、


「俺は両親に隠れているように言われ外にも出るなと言われていた。耳を塞ぎ聞こえて来るテレパスでの悲鳴を遮断しずっと隠れていた。静かになり外に出た。そこは恐ろしい位の静寂しかなかったよ。俺はテレパスで呼んだ何度も何度も……だが、返事は返って来なかった‥‥‥誰の声も返って来なかった……生きている者は、誰も居なくなっていた。地上には死体の山だけが残りになっていたんだ。一人では生きて行けない。寂しさと孤独の中、俺は死んだんだ‥‥‥」


「‥‥‥マスターの前世がそんな悲しいものだったなんて」


皆が下を向く、そんな皆にマスターは優しく声をかける。


「もう過去の話だ。今は家族に囲まれて幸せだよ。そんな前世だから予知と言う有難い能力を授かったのかもしれない」


そうだった。この人は年収数十憶を超えていた! 太陽がため息を吐く。それは皆同じだった。そこで太陽が言う。


「あの時、奴ら、がっつり武装していたよな? この前の奴らは簡単な武装しかしていなかった。地球人に俺達の様な能力者はいないと思っていたのだろう。だから甘く見ていた」


アキラも言う。


「だろうな。俺達が母船に乗り込んだ時も驚いていたよ。奴らの中にも能力者はいたが大した事は無かったよ。最前線の様子見部隊って所か、だが分からない。今までの色々な事件と今回の事とは何かが違う、今までの事件は俺達が片付けてきた。俺達の存在を知らない訳はないはずなのだ……知らなかったって……」


マスターも言う、


「向こうの内部でも、何かが起こっているのかも知れない。が、これで奴らも攻撃の方法を変えてくるだろう。間違なく、テレパスを多く送り込んでくるだろう。勝手に自滅してもらった方が楽だからな」


「させない! 地球は諦めてもらう。今、地球にはこの俺がいる! 奴等の思うようにさせるものか!」


アキラは力強く言う。


「マスター、一緒に大臣の所に行こう。きっと奴等への対応に困っているはずだ」


そう言うと2人で飛んだ。大臣の部屋には数人いて、慌てているのが分かる。そこにアキラ達が現れて部屋の中にいた人達が驚き、書類などを床に落として散乱し更に慌てる。その様子を見てアキラは、


「悪い大臣、連絡せずに来て。今直ぐに話しがしたい。大事な事だ」

アキラの切羽詰まった様子に大臣も察する。


「そうだな、こちらもバタついていてな。一緒にお茶でも飲みながら話そう」


大臣は人払いをして応接セットのソファーに座る。秘書らしき人がお茶を用意してくれた。


「降伏してはいけません」

アキラが大臣に向かって言う。


「今度の敵は軍隊です。かなり武装もしてくるでしょう。甘くみていた我々に前線にいた者があっさりやられたのです。また集めて下さい! 再び会議を」


「そうだな、どの国も困っているようだ。総理とも話してみるよ。追って連絡しよう」


「早い方がいい。対策が取りやすい」


アキラは笑顔だった。それを見た大臣は少し安心したようだ。策はある、その言葉に希望を見つけたようだ。大臣は直ぐに部屋を出て歩きながら片手にスマホを取り話しをする。総理大臣その人に。


「今からそちらに向かいます。大事なお話しがあります。お人払いをして下さい。総理‥‥‥」



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