第26話 新しい家族
夏が過ぎ、秋は深まる。私はいつに無く気怠い。はあ、ここ最近朝が起きられないのよね。気温の変化で風邪でも引いたのかしら? でもいつもアキラから力を貰っているから風邪なんて引いた事なかったのに‥‥‥重たい身体を起こし朝食の準備をする。朝から食欲が出ない。箸が進まない私を見てアキラが言う。
「あゆみ、最近食べないよな? ダイエットなんて言うなよ、もう少しふっくらした方がいいんだ。食欲ないなんて、何か困った事でもあったのか?」
心配させているかな? どうしちゃったのかな、私‥‥‥。
「何もないよ。珍しく風邪でも引いたのかな?」
そう言って片付けをしていたら眩暈がした。あれ? 目の前にアキラの心配そうな顔がある。そうか、私‥‥‥アキラに支えられている。
「やっぱりおかしいぞ! 今日は仕事は休む! 一緒に病院に行こう!」
‥‥‥私は病院のベッドに寝かされていた。隣でアキラが泣いている。私の手を握りしめて言う。
「あゆみ……ありがとう」
そう、私は妊娠した。どうやら双子のようだ。心音が2つ聞えますと言われエコーでも2つの小さな影のその鼓動を確認してアキラはその場で、
「やったー!」
と大きな声で叫ぶ。恥ずかしい……でもそのまま入院になってしまった。貧血が酷いらしい。私の所には沢山のお見舞いと同時に沢山のおめでとうの言葉を貰った。父なんか、名前を考えるのに一生懸命らしい。入院してから悪阻が酷くなり吐いた。点滴が増えた……。
アキラは仕事が終わると毎日病院にやって来る。その病棟の看護師さんからよく聞かれる。
「旦那様は、ハーフですか? モデルとかしているのかしら? 素敵ですよね! 皆興味深々なんですよ」
そうなんだ‥‥‥。まあね。イケメンなのは認めるし、女性の視線を集めるのも解っている。ここは産婦人科病棟なので、スタッフは全員女性だものね。アキラはクオーターで祖父がイタリア人だと話しておいた。
毎日病院に通ってくるアキラは、私のお腹に毎回手を当てる。そして嬉しそうに言う。
「俺が父親かあ、マスターからも色々言われているよ。なんせ先輩だからな。ばあちゃんなんかも、ひ孫が見れるって大騒ぎだよ。でも俺も早く逢いたいな、この子達に」
私は幸せを噛み締める。
※ ※ ※
今日は退院日、母とアキラが迎えに来てくれた。3週間も初めてアキラと離れていたから、寂しかったのは勿論だけど何か久しぶりな感じがする。
「妊婦さんは貧血になりやすいから気を付けてね」
母はそう言って帰って行った。父がイタリアから帰って来るので迎えに行くらしい。父のイタリア語もなかなか上達していて先方からの評判もいいとか、なので最近は良くイタリアに行っている。
退院後、久しぶりの家に安心してソファーに座るとアキラが、後ろから私を大事そうに抱きしめてくれる。
「あゆみ。今夜は焼肉でも食べに行くか? つわり治まったんだよな。しっかりお腹の子に食べさせてあげないとな」
アキラは嬉しそうに話す。
「そうね。病院食にも飽きたから嬉しいわ」
「そうだ! それなら、太陽たちを呼ぶか?」
「そうね。そうしましょう」
お店に着く。入るともう智子達は来ていた。智子達に声を掛けられた。
「退院おめでとう! お腹の赤ちゃんも元気そうで良かった」
「もうお店に来ていたのね! 早かったわね。急に誘ったのにありがとう」
うん? 何だかさっきから2人がソワソワして落ち着きがない。すると、智子は恥ずかしそうに左手を上げる。そこには婚約指輪が光っていた。あらまあ!
「実は、幸せそうなアキラ達を見ていたら俺も智子を幸せにしたい! って思って‥‥‥でプロポーズした!」
照れる太陽に、
「そっかー! よかったな! 太陽! おめでとう! 今夜はお祝いだ。俺のおごりだ呑めよー!」
その夜、マスターから集合して欲しいと連絡があった。
月曜日お店は休業日、いつものように奥の部屋に入る。マスターの表情がいつもより怖い。すると、アキラに向かって、
「アキラ、あいつは生きている」
「そんな、黒こげにしたぞ! あれで生きているのかよ。くそー‥‥‥」
アキラの握り拳に力が入る。私はまたあの狂気を思い出す。どうしようまたテレポートで連れて行かれてしまうのかしら……私。
「俺の予知では、近いうちに動いて来る、仲間をやられたんだ。奴らもこれからは違った方法で挑んでくるだろう。直接攻撃もあり得る……あるいは……」
マスターの顔が真剣になる。何かを思い出しているようだった。普段はメガネをかけた優しい眼差しをしているのだが、こういう時のマスターは別人になる程怖い顔になる。神経を集中して予知を感知する。そのマスターの姿から今回は相当覚悟しないと行けないのだと思わされる。それは私だけではない。智子も太陽も同じだった。じっとマスターの答えを待つ。
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