第19話 英雄と姫

コンサートに向けてそれぞれ準備が始まった。知子と私はヒーラー達と一緒に居る。加護持ちなので何かあっても守ってもらえるだろう狐に麒麟だぞ! ってアキラは自慢するけれど他の国には龍の加護を持つ者もいるし、何かここまで揃うと動物園かよって突っ込みを入れたくなる。ポールはまた姫に会えるかも知れないとワクワクしているのが分かる。


会場の用意は日本で開催される、護衛任務を任された。


だから、警察や自衛隊の特別に訓練されたエリート集団などと協力して計画しないといけない、勿論力の強い者が護衛に就く。アキラがトップなのは当然だから離れるのは仕方がない。分かっていても少し寂しいかな……ヒーラー達の中に居てもアキラの事を凄く聞かれる。今や注目の人となっているから‥‥‥


そんな時は決まって智子が私の代わりに話しを始める。毎回恥ずかしい。


こうしていてもついアキラを目で追ってしまう。目が合うと笑顔で返してくれる。そうなると周りがきゃーと言う。アキラやっぱり凄いわ、女子の視線の先にいつもいる。リーもそうだった‥‥‥。


リーと初めて会ったのはリーの総隊長就任式の日だった。英雄って聞いていたから怖い人かと思っていたら凄く優しくて、私は一目惚れをした。これは誰にも行っていない秘密。リーも知らない。だから告白された時もの凄く嬉しかったのを思い出す。


アキラはこちらをチラチラ見て気にしてくれている。私を見る男性に威嚇するのは相変わらずね。


皆、ティアーヌを、リーキャスをあの悲しい最後を知っている。


一番驚いたのは私なのに、死んでから物凄く美化されていて……でも悲しいのは本当。リーの悲しい顔が最後の想い出なんて覚えていなくて良かったと今は思う。多分アキラもそう、覚えていたら耐えられない。壊れた英雄・彷徨える生きた亡霊……そんなにも愛されていたのだと知って嬉しかった。でもそんな事は言えない。リーの最後が余りにも可哀そうで、今もその傷は魂の何処かにあって時々彼を苛む。


一緒に暮らし始めた頃、よく夜中にうなされていた。そして、泣いていた。あれはきっと夢の中で私を探していたのでしょう? そんなになってまでと思うと、辛かった。


時々見えるの皆の中でリーがフラフラ歩いている姿を、そんな姿を見るたび抱きしめてあげたくなる。どんなに近づいても触れられないきっと死んだ後、リーの傍にいたのね。でも気づいてもらえない、そんな感じかしら?


ヒーラーの代表は何故か私になってしまった。私が寂しそうにしているからと行っておいで! と後ろから押されて護衛隊の方へ行く。そこには怖そうな自衛隊の人や警察の人達がいた。


「大丈夫だよ。皆さん俺達の事は防衛大臣から聞いて知っていて、その後の事件の事も知っている。彼等達から是非、協力させ欲しいと言ってくれたそうだ」


とアキラは優しく微笑む。そうなんだと、ほっとする。


その中から警察の人かしら?


「貴方がティアーヌ姫だったあゆみさんですか?」

と聞かれた。


「はい、そうです。ご協力感謝します」

 笑顔で答える。自衛隊の中からも誰か出て来た。


「あの、自分はティアファンで会員になってます!」


と、それって言っていいのかしら? アキラの顔を見る。ニコッと笑い、


「俺も驚いたんだが割と多いんだよ。ここにいる連中」


そこに居た全員がスマホを出して私に見せる。その待ち受けはあの写真だった。あらー!


「それじゃあ、皆さんあの話しもご存じなのですか?」


「英雄の悲恋話しですよね。もう全員知っているのじゃないかな? 自分は知らなかったから同僚から聞きました。感動しました。こうしてご本人を前に出来て光栄です」


「そうなんですね。なんか恥ずかしいです」


「前世が姫だっただけにあゆみさんも清楚で美しいです」


はっと、アキラを見る。あれ? いつもなら威嚇するのに嬉しそうにしている。


「それがモチベーションになるのなら構わないさ。あゆみは俺の奥さんなんだ」


 そう言って見つめ合う。


「あの壊れた英雄が今は幸せになっている。素敵な話しではありませんか! 自分も地球の為に戦いますよ! その為にこの仕事に就いているのですから。SP何かも気合入ってて張り切ってますよ。安心してこの地球を癒して下さい」


そう言って敬礼される。なんて嬉しいのだろう。この地球を守ろうと心をひとつにしているのが、あの話しだなんて不思議な気持ち。


「ありがとうございます。皆さん」

とお辞儀をした、


「メインは貴方達ヒーラーなのですよ。頑張って下さい」


「はい!」

と笑顔で返す。そこで、アキラに聞きたい事があったのを思いだす。


「ねえ、アキラ。私達はステージの裏にいればいいの? 沢山のミュージシャンの方達が来られるのよね。お邪魔じゃないかしら? 機材なんて多くて大変なのでしょう?」


「大丈夫だよ。そこは自衛隊の方達が協力してくるから。外の業者なんか危なくて仕方ない。こちらには透視能力が出来る者も多くいるから変な物は持ち込めない。そこはしっかりやる。お前達の所には俺が行くから安心しろ」


「今回は会場には客は入れない。衛星中継だけで行われるから会場にいるのは音楽関係者だけだ。オーケストラも入る」


楽しみだわ、ゲストは決まっているのかしら? 考えるとワクワクする。


「ゲストは沢山来るぞ。空港やホテルの方が大変かもな。他の国からも沢山やって来るから日本は大変だ」


「まあ! アキラって他人事のように言うのね」


私達の会話を嬉しそうに見られている事に気付いた。恥ずかしい……


「安心して皆を癒してくれ。そうヒーラー達に伝えてくれ。ほら戻った」


とアキラに背中を押されて返される。




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