第17話 世界は悲しみに包まれる

私は今回も自然の声を聴く、すると小さな虫が無数に蠢いているのが見えた。それをどうやって皆に伝えていいのか分からないでいた。早く何とかしないと犠牲者が増えいく、そう思うと気持ちが焦る。そんな気持ちが空回りして集中力が続かない。そんな私をアキラは、


「あゆみ、俺やマスターがその虫を今、手分けして探している。だから、そんなに自分を追い込むな俺はお前が心配なんだ。最近痩せたみたいだし、しっかりと食えよ。身体が持たない」

そう言って抱きしめてくれる。


「今日の晩飯はマスターの所で食べよう。美味しいってあそこのバイトの坊主達も言ってただろう? まだ、食べた事無かったんだよな。そうしてくれ俺が食べてみたいんだよ」


「そうね、今日はマスターの所に行きましょうか?」



 そして、お店に着いた。


「いらっしゃいませ、お席は取ってありますよ。どうぞ」


 と私達を案内してくれた。出された料理はどれも美味しくて自然と笑顔になる。アキラはほっとした様に、


「ほんとに美味いよな。流石シェフ! あとから挨拶に行くよ」


「伝えておきますよ」


 結局全部食べた。その後のデザートには私が好きなケーキが出てきた。これって?


「うちのワイフがこんな事しか出来ませんが元気を出して下さいと言っておりました」


「そんな事ないです。とっても嬉しいです」


お店のスタッフもほっとしているのが分かる。私ってそんなに分かる位に暗かったのかしら? 皆に心配されていたなんて……


 その中のバイトくんの1人が何かをやっている?

「それ、何?」


「ああ! すみません! お食事中に、気になりますよね」


「大丈夫よ、私達知らない仲じゃないし同じスタッフよ。お仕事してて」


「今のうちにやっちゃおうと思って、ホイホイですよ。冬でも出るんです。だから、夜に仕掛けて置くんです」


 アキラがガタっと椅子から立ち上がる。


「それだ!」


 バイトくんの頭をぐりぐりと撫でる、


「ありがとな!」


「アキラさんにそう言ってもらえると僕も嬉しいです」



理由が分からないという顔で困ったような笑顔をするバイトくん。



そのバイトくんから、こそっと、今度はいつアキラが店を手伝いに来るのかを聞かれた。どうやら、この店に現れるハーフのイケメンウエイターの噂が広がっていて、いつ来るのかよくお客様に聞かれるらしい。今は未定なので、と話すと肩を落とす。


年末年始に来ていたお客様の中にアキラ目当てで来ていた人もいたのね。ん? アキラがマスターと話しをしている。マスターもああ! と言う顔になる。食べ終わるとシェフに挨拶をした。お店を出て2人で帰る。お腹一杯だわ、単純ねお腹一杯になると幸せな気分になる来て良かった。


「あゆみ、元気出たか?」


「うん! ありがとう」


「虫を見つけて捕まえる方法が分かったよ。だから安心しな、後は俺達がやる」


いつもの様にアキラの腕の中で私は眠る。


アキラは私の腰に手を当てる、やっぱり薄くなっている。これ以上無理はさせられない静かに呟き、キスをする。餌はどうする、マスターとやり取りしながら考える。


翌朝、疲れは無い。また、貰っていたのね。いつもの様にアキラを見送りカフェへと向かう。捕まえるって言っていたけれど?


今日はマスターが居ない、他の店に行っているのだと聞かされた。もしかしたら……と考える。


アキラとマスターは飛んでいた。そこは地下鉄だった。あの事故から、毎駅で車両が点検される様になっていた。その車両には沢山の人が乗っている。アキラ達はその車両の下に居た。あゆみが見たら怒るだろうな、だが、好物だろう? アリども、餌は用意した。食いつけ! 車両が動くその時、ざわざわとした物が波打って車輪や車両に纏わる付く。来た! マスターと一緒にそれらを集めて1一つの玉に変える。そしてまた違う車両へ行く、それを繰り返していた。



マスターは今日はこれでまでだ、明日は違う路線でアリが群がると言った。何匹いるのか……


アキラはそれらを、車両が通過した路線で灰にした。


マスターはネット上で謎の預言者として、なかなか有名な人物になっていた。地震が起こる場所、日時など的中率は100%、竜巻の被害などの注意を伝えたりなどしていた。その信用度は高い。その謎の預言者、マスターが安全な車両、路線をネットで上げていた。危険とされる車両を、アキラ達が揺すっていた事もある。なので、ここ最近見なくなっていた満員電車が出来上がる。そこで、人の匂いに釣られアリが群がる。それを叩く、これを全国でアキラ達はやっていた。マスターが予知をする、ネットで伝える、アキラがアリを捕まえる。


他の国でも同じ様にやっていた。人集めはその国で方法を考えアリを捕まえる。正体が分かれば対処法は何とでもなる。


アキラから終わったよ。と言われて安心した。後から、バスや鉄道などにウジャウジャいたと言われた。そんな事になっていた事とは知らなかったとはいえマスターに、お店回りお疲れ様です。と言っていた自分を思い出し、申し訳ない気分になった。



アリ事件は各国落ち着いたが、今回は被害が多きかった。知子と太陽も被害者だ。初詣で賑わい、新年の初めての日に世界中は悲しみに包まれたのだった。


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