第12話 九尾の狐
「あはようございます! マスター」
いつもの様にお店立つ。今日は朝から忙しい。ランチタイムが終わってもケーキセットの注文が多かった。今日は、人気のシフォンケーキがメインなので色々な味が揃う全種盛りが、飛ぶように注文が入る。そんな中、マスターは器用に店内を駆け回る。これって、時々飛んでいるわよね? 関心して見ていたらきゃっと悲鳴が上がる。コーヒーが零れたらしい。慌てて行こうとするとマスターが目の前に居た。
「お客様、新しいコーヒーをお持ちしますのでお待ち下さい」
と、お客との間に割って入って来た。普段こんな事はしないのに、わざわざ私を遠ざけた? すると、マスターがガクッと膝を折る。
「マスター!」
駆け寄ると、マスターは辛そうに眉間にシワを寄せている。他の店員さんと抱え奥の部屋に連れて行く。誰かがチッと舌打ちをしたのが聞こえた。間違いない。マスターは私を庇った! 誰? 耳を澄ませる。居た! そそくさと出て行ったあの客だ。店の入り口にある植木鉢のツルがその客の足に絡まるが、その姿は直ぐに消えた。
私は、奥の部屋へマスターの所へ行く。顔色が悪い苦しそうだ。奥様を呼んで病院へと送る。私は叫んだ。
「アキラ! 助けて! マスターが!」
その声を聴きアキラが飛んで来た。
「大丈夫だ。あゆみ」
奥の部屋で私は1人取り乱していた。
「マスターが、私を庇って……」
アキラにしがみ付く
「どうしよう……」
奥さまの心配そうな顔が過る。ダメだ。私が泣いたら行けない。そう思うのだが自然と涙が流れる。
「お前のせいじゃない。泣くな」
そう言って力の入った手を握ってくれる。
「……嫌よ、こんなの……嫌よー!」
私はテレポートをした。
マスターの病室に来た。奥さまは部屋の外でドクターと話しをしている。
ベッドに横になっているマスターに向かって、
「嫌よ、マスター! 私、こんなの嫌。誰かが私の代わりになんて私は望んでいない!」
アキラが追いかけて来た。そこで見たのは室内に花や草木が覆う中で、マスターを囲む様に大きな狐が寝ていた。それは九尾の狐だった。そこで泣きじゃくる私が居た。
「何だ……これ……」
アキラは呟く。追いかけて来たアキラにしがみ付く、狐はこちらを見るとふっとその姿を隠す。
「あゆみ、大丈夫だよ。マスターは見てごらん」
そう言われてマスターを見る。顔色がいい。ゆっくり寝息を立てているのが分かる。
「さあ帰ろう。もう大丈夫だ」
そう言われてカフェの奥の部屋に戻った。今の状況が良く分からないのは私だけ? アキラは笑顔で私を見ていた。
「本当にお前は、凄いよ」
なんの事を言われているのか分からず、そのままアキラを見ていたら。
「お前が悲しむ姿を見たくないんだとさ。ほら、そこにいるだろう?」
そう言われて見る。あの狐が足元で座って私を見ていた。
「また、あなたに助けてもらったのね。ありがとう。ありがとう」
何度も言った後、笑顔で狐の頭を撫でる。嬉しそうに尻尾を振って消える。
「な? 大丈夫だろう? マスターはここまで俺に見せてくれたよ。あゆみが取り乱すから居てくれと言われた。だから俺は今日は半日勤務だよ。一緒に帰ろう。店も大丈夫だ。マスターが、うちのスタッフは優秀だから任せておけって」
「良かったー‥‥‥」
一気に気が抜けアキラに寄りかかる。
「ほんとに愛されているな。ほら、笑顔で返してやれ。それが一番嬉しいんだって狐が言っていたよ」
その後マスターの奥さまもカフェに戻り、私は強制的に帰された。家に帰って来てもまだ自分の感情がコントロール出来ないでいた。すると私はベッドに寝かされる。アキラは当たり前のように私に覆いかぶさり、見下ろす。
「ほんと、可愛い」
この顔、いつもの悪戯っ子の顔だ。何よ! 私、凄く心配したのに! 知っていただ何て! もう!
“アキラの意地悪ーー!” テレパスで叫ぶ!
アキラは頭を押さえて言う、
「痛ってぇ! おい、今のは完全に皆に聞かれたぞ。頼むからテレパスは使うなよ。お前のファンに俺がボコられるからさあ」
早々反応したのはポールだった。アキラが難しい顔をしている。あー痴話喧嘩だよ。と言い返している。その後も色々な人が入ってくる。痴話喧嘩、痴話喧嘩、何か凄い勢いで言い返している。その表情がコロコロ変わるので見ていて面白い。
「あー! もう! わかりました! 皆。止めてくれ‥‥‥俺は悪くないぞ。悪くなーい!」
と、困った顔をする。うふっアキラ可愛い。私の荒れていた感情も少しづつ和らいでいった。
マスターの判断は間違っていない、私が知っていたらきっとマスターを止めていた。それでは敵はこちらを警戒して違った方法で私は狙わていただろう。
今回、マスターとアキラの二人が私を心配させまいとしてくれた行動に、改めて自分は守られているのだという安心感と、頼もしい味方がいるのだと解らせて貰った様に感じた。
私はこの後、やっぱり激しく愛される事になった。アキラの愛を受けながら、私の心は平常に戻っていった。
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