第11話 父と会う

ここに一人興奮している人物がいた、ポールだ。あの日、あゆみの力を体感して、憧れの姫の姿が見えたのだ。まあ仕方がない。アキラもそこは、あえて何も言わない。その後、私達は智子達に結婚の報告をする。智子は私にしがみ付いて言う、


「良かったわね。前世じゃあ式は挙げられなかったから‥‥‥祝賀パーティーの予定はあったのに‥‥‥あんな事になったから‥‥‥あゆみのウエディング姿が見られるのね。嬉しいわ」


智子はぽろぽろと涙を流して喜んでくれた。私も嬉しい、だって前世で本当なら私達は結ばれていたはずだったのだから。まさか、あんな悲しい最後になるなんて誰も思っていなかった。予知が出来る者はいた。だけど、きっとそんな事は起きない、だってこの星には英雄がいるからと‥‥‥前世を覚えていなくて本当に良かった。その事はアキラも同じだった。私達は出逢った瞬間思い出すようになっていたのだろうって。そうじゃないと正気ではいられないと。そうよね‥‥‥。そう私も思うわ。


※  ※


もうすぐ父が帰って来る。そして約束していた日がやって来た。


アキラは、また緊張している。今日は父に会う。私も久しぶりだわ。何か月ぶりかしら? 一人っ子だったから甘えん坊で見えている怖い物にいつも泣いていた。そんな私を両親は否定でせず受け入れてくれた。大丈夫だからと、いつも頭を撫でてくれていた。


今日のアキラはいつもラフな格好だけど今回はスーツにネクタイ、仕事に行く時とは別に髪までセットしている。何度も、私にこれでいいか? と確認をしてくる。きっとお母さんもビックリね。家に行く途中アキラはずっと無言だった。やっぱりこういうのって緊張するわよね。


私達は玄関に着く。アキラの緊張が私にも伝わってくる。インターフォンを押す。ドアが開き母が出迎えてくれた。アキラの姿を見てクスっと笑う、緊張しているアキラと一緒に家の中に入る。あら! アキラったら、また手と足が一緒に出ている。歩き方変。笑える。そして、二人でリビングへ入る。そこには、ソファーに座っている父が居た。私は、


「パパ! お帰り!」

と抱き着くと父の目尻が下がる。が、アキラの姿を見てその顔が怖くなる。


「誰だ。こいつは」


アキラには見えていた。父の前世の姿が。アキラは焦る。やっぱり陛下だ! ダメだ。今の俺には何も肩書はない。冷や汗が流れる。そこで母が、


「今、あゆみがお付き合いをしている、西野アキラさんよ」


「初めまして! お嬢さまとお付き合いさせてもらっています! 今回は!」

と言いかける、と


「聞こえんなあ! そこの小僧、帰れ!」


ああ~怒られた。お約束ってやつかな? 直接言われるとへ込むよなあ。アキラがそう思ってしょげている姿を見て、母と私は父に向かって


「パパ!」「あなた!」

 と同時に言う、


「ああ。分かった。君、そこに座りなさい」


 態度が急変する。アキラは、ソファーに座り父を真っ直ぐ見た後、頭を下げ

「お嬢さんとの結婚を許して下さい。大事な娘さんを俺に下さい!」


言えた! それだけで少しは気持ちが楽になった。ほっとするアキラ。父は表情を和らげ諦めたようにふーっと大きく溜息を吐く。


「来る日が来たか、いづれ来るだろうとは覚悟はしていたつもりだったが、実際にそう言われると寂しくなるものだな」


「それじゃあ! 許してもらえるのですね!」

顔を上げ嬉しそうに言うアキラの顔をじっと父は見て言う。


「君はハーフかい?」

と目の前のアキラの顔に近づき真っ直ぐに見て言う。アキラは少し困った顔をする。


「それ、良く聞かれます。瞳の色も違うからそう思われるみたいです‥‥‥俺はクオーターです。祖父がイタリア人なのですよ」


「そうか。実は今回の出張先が海外でね、イタリアに行っていたのだが言葉が難しくて大変だったよ。君は話せるのかい?」


「祖父とは、小学生までしばらく一緒に暮らしていたので何とか話せます。向こうにも友人はいるので、たまに電話で話したりもします。でも、言葉って使わないと忘れてしまいますね」


「そうか、で? ご両親は?」


「いません。今、身内は祖母だけです。海外にいますが」


「イタリアかね」


「はい、そうです。祖父のお墓があるので離れたくないと」


そこまで聞いてやっと父はアキラに笑顔を見せる。そして、

「そうか。君は今まで頑張ったのだね」


そんな事を言われたら泣きそうになるじゃないか。相変わらず飴とムチの使い方が上手い人だとアキラは思う。隣にいた私が泣いてしまった。


「何故あゆみが泣くんだ? 泣きたいのはこっちだぞ。まあ、楽にしてくれ詳しい事は後から母さんに聞いておく、どうせ色々もう話してあるのだろう? だから、今日は帰ってゆっくりしなさい。私も心の整理が‥‥‥いや何でもない」

そう言う父は寂しそうだった。後はお母さんに任せましょう。


アキラはきっちりお辞儀をしてリビングから私と出る。玄関を出て歩いて帰る途中で隣にいるアキラが、

「はあ、すげー汗かいた。脇汗凄い」


そう言ってネクタイを緩める。


「流石だな。陛下はやっぱり凄いよ」


そう言うので、私は本当の事を言う。

「父本人は前世の事はまったく覚えていないの、母だけは覚えていて一目惚れって言っているわ」


「凄いな、お前の母親。敵わないな……なあ、あゆみ、飛んで帰っていいか? 俺、すげー疲れた」


あまりにもアキラが可愛いので、くすっと笑う。


「まあ珍しい、いいわよ。帰りましょうか」


私達は飛んで部屋に帰って来た。アキラはスーツを脱ぎワイシャツのボタンを外す。ソファーでぐったりもたれているその横に座る。するとアキラは私の膝を抱え顔を埋めて、


「俺、頑張ったよ」


「そうね、偉い偉い。明日、マスター達に報告しないとね」

子供の頭を撫でるように髪を撫でた。アキラはむくっと身体を上げて


「そうだな、これからの事も色々聞かないとな」


私達は見つめ合う。


「あゆみ、幸せだよ。ありがとう。俺の前現れてくれて」


「わたしも、幸せよ。私を選んでくれてありがとう」

「当たり前だ。俺達は巡り合う運命だったんだから」




※  ※  ※




 一方部屋の中を歩き回る人物がいた。



「何故こうなった。あんなに仕込んだ爆弾が見事に台無しだ。くっそー! 奴だな。リーキャス! いつもそうだ。アイツは俺の邪魔ばかりする。アイツの星を狙っても星に着く前にやられた。アイツのせいで作戦は失敗する、何度も攻撃したが、アイツが出てくると上手くいかない。他の星では上手くいっていてもだ!


‥‥‥‥‥‥


方法を変えてみるか? そうだ! こうなればまずは、アイツの弱点の姫を先に何とかするか。それがいい、待っていろリーキャス。またお前を壊してやる。楽しみだな」

ワーッハッハーと大きな声で笑う。その声は部屋中に木霊した。



‥‥‥危機が迫っていた。それに気づいたのは、マスターの速水だった。

これはなんの光景だ? あゆみちゃん?


「危ない!」


ベッドで勢いよく起き上がり叫ぶ。これは‥‥‥まずいな、仕事を休ませるか? 嫌、余計に不安を煽るだけだ。いつ起きる? ……分からない。これは敵も思案中か? ……それなら、思いついたらすぐに仕掛けてくるな。アキラにだけは伝えておこうそして‥‥‥。


マスター速水は、アキラに伝える。今見た光景と予知で見えた光景とを。


夜は深まる、アキラは自分の腕の中にいる愛しい人を見つめる。私は知らなかった。この後に起こるそれを。


朝、いつものようにアキラを見送り私もカフェへと向かう。


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