第10話 天使、それは

荷物を置いて今夜は、私の家でご飯を食べる予定だと話すと喜んでくれた。その後は、アキラの昔の話しを聞いて感動している。


ご両親は、トンネルで玉突き事故に遭って亡くなり、潰れた車体からアキラだけが奇跡的に助かったのだと。当時は中学生でサッカーをやっていたが、怪我でサッカーが出来なくなり、その後のリハビリで始めた水泳でインターハイに出た事や、アキラも子供の時から、色々見えていた事も話してくれた。どうやらご両親は、その事を余り良く思っていなかったらしい。そんな事もあって、小学生までお爺さまとお婆さま達と一緒に海外で暮らして居たのだと話してくれた。事故の後は、おばあ様が日本に来て大学卒業まで一緒だったと。


「高校生の時も水泳をやっていたが突然退部して、それからずっと勉強ばかりしていたよ。事故の後は、性格も変わってしまって、全く話さない子になってしまっていたからね。それが、大学で太陽くんと出会ってから明るくなった。太陽くんには感謝しているよ」


「もう、婆ちゃん話し過ぎだ」


「何を言う、おまえ事だ。何も話していないだろう? 女はね、好いた男の事は色々知りたいものさ」


「おばあ様。ありがとうございます! そんな話し聞いていなかったから嬉しいです」


「他にもあるよ」

とにこっと笑って私を見る。そこでアキラが話をさえぎ


「婆ちゃん! もういいよ。俺がはずかしいから、頼む! 黒歴史には触れないでくれ」


アキラが困った顔をするので、

「まあ、後はこっそり話すかな」


 と、私に向かってウインクをする。お茶目で可愛いおばあ様だわ。


「婆ちゃん。今日は泊まっていくだろう? 二階にベッドがあるから、使ってくれ」


「やだね。私がいたら、いちゃつけないだろう。私はそこまで無粋じゃないよ。今日は友達の家に泊まるんだ。夜皆で呑もうと思って土産も送ってある」


「それでは、夕飯は早目がいいですよね。母に連絡します」

と言って隣の部屋に入る。


おばあ様はそっとアキラに話す。

「いい子じゃないか。あんなに女を取っ替え、引っ替えしていたお前が、結婚って言うから正直驚いたけど、あんないい子泣かせたらダメだよ」


「それ、他の人にも言われたよ。泣かせたら殺すって」


「そうさね、ファンクラブの会員からも八つ裂きにされるだろうよ」


それは勘弁してくれ、と頭を抱えるアキラは大きなため息を吐く。



私は母からの提案をおばあ様に伝える。

「おばあ様。母が海外ではうな重はないだろうから、ウナギはどうかしらって言っていますがどうされますか? 他にお好きな物があればリクエストして下さい」


おばあ様は笑顔で

「いいねえ。ウナギ、ではお言葉に甘えてうな重をお願いしようかね」

「はい! 分かりました。母にそう伝えておきます」


私はその事を母に伝える。


「婆ちゃん。女の話はするなよ」

こそっとアキラが言う。


「解っとるわ。そんな話なんか聞きたくないだろう。でも、彼女はきっとそんな話も笑って聞いてくれるだろうさ」


母に連絡を取り、部屋に戻る。その後も子供の頃のアキラの話しを聞いて、三人で時間まで過ごした。


時間になり、私達は家に向かう。


「いらっしゃい! アキラくん、初めましておばあ様。どうぞ、上がって下さい」


夕飯を食べながらおばあ様の話しになり、旦那様はイタリアの方だと初めて知った。クォーターなんだ。成る程、ハーフっぽいとは思っていたけれど。そういえば、瞳の色も少し違うのよのね。よく見ると薄い茶色に緑が混ざっている。

楽しい話しの時間は過ぎ、おばあ様はお友達の所に行くからと言って、お礼を言った後、宜しくお願いします。と、言われた。


何だか今日は嬉しい日だった。帰りはアキラと手を繋いで帰った。


「素敵なおばあ様ね。そして可愛らしい。旦那様の事を愛していたのが良く分かるわ。私、あんなおばあ様になりたいわ」


「それは、やめとこうか」

アキラは気まずそうに言う、


「疲れただろう? 飛んで帰るか? それに‥‥‥気になっている事もあるしな」


あら、珍しい。アキラがそんな事を言うなんて。

「アキラがそう言うのならそれに、私もまだ不安な気持ちはずっとあるの」


部屋に戻った。何かおかしい、空気が違う。その時大きな音がした。近くの工事現場だ。あの時飛んで帰って来なかったらと思うと怖くなった。


外はサイレンの音が沢山聞こえる。2人のスマホが同時に鳴る。智子と太陽からだ。集まって欲しいと言われ今度はカフェまで飛ぶ。そこには智子達も来ていた。アキラが聞く、


「マスター何があった」


「これが、大臣の所に届いた」


宛名も差し出し人も分からない封筒があった。その中には、『地球人には居なくなってもらう』と書かれた手紙が入っていた。マスターは言う。


「今まで、コソコソしていたが、ついに出てくるぞ」


「マスター、この前の神隠しの犯人は俺達に気づいたよ。見つけたと言われた」


皆が私を見る。智子が、

「それって危険じゃない! あゆみ、大丈夫? あの後、怯えていたでしょう? だから、実は心配だったの」


それに答える様にアキラが、

「マンションの近くで爆発があった。嫌な予感がしたから飛んで帰ったが、歩いていたら危なかった」


皆の顔色が変わる。視線が私に集まる。すると、


「大丈夫だ。あゆみはもう、今は最強だぞ」

アキラがふっと笑う。


「敵は地球人にも転生しているようだ。そいつ等が手引きしているのだろう。野郎! お前達の好きにはさせない。マスター、海外はどうなっている?」


「同じだ。軍の本部にもこれは渡っている。アキラ、国のトップからの依頼だ。“R”力を貸してくれ。だそうだ」


アキラが誰かと話してる?


「……ポール達の所のアメリカやイギリス、世界中のあちこちで爆発テロが起きているみたいだ。対策は伝えた」


「伝えた? どうするの?」


「あゆみ。やってくれ」


 そうアキラに言われた、私はここに来る前にアキラと相談していた。これから同じような爆破テロが起こるだろうと、だから、それは何としても止めないと行けない。その方法をこれから試してみる。

「解ったわ」


ふわっと私の身体から淡い光が放たれる。すると、爆発物が何処にあるのか見えてくる。


「これって!」


「そうだ、あゆみの力だよ。これは世界中のスターチルド達にも見えている。凄いだろう。この地球上の自然すべてが俺達に力を貸してくれる。こんな力強い味方はいない。反撃だ、片っ端から壊して行け!」


「了解!」


そして、スターチルドレン達の反撃が始まる。


次々と爆発物は取り除かれて行く。後少し、私は探す。そして、伝える。アキラは言う、

「焦っているだろうな。何が起こっているのかきっと分かっていない」


それは、明け方までかかった。もう大丈夫。そう思った途端意識が遠のく、アキラが私の身体を支える。


「よくやった。頑張ったな」


そう言って優しいキスをする。私に力を分けてくれる。その後、智子が言う、


「何? 私達、凄い奇跡を目撃しているわ。見て! 花が咲いている」


夏なのに、桜も咲いている。地面にも、一面に花が咲き始める。それは、世界中で同じ現象が現れていた。


翌日のニュース番組は、こぞってそれを取り上げた。


異常気象のせいだとか、あの天使が見えたとさえ言う者も出て来た。ティアの姿が見えたかも知れない彼女の力でもある。またネットでは大騒ぎになっていた。ファンクラブの会員数は延びただろう、何故かティアの名前まで出てくる。ティアーヌ天使。それはそう呼ばれるようになった。


姫なんだがな。アキラはそう心の中で思う。


ティアが死んだ後、その姿を探してフラフラと歩き回る。何度その名前を呼んだか、それでも、二度とその笑顔は戻らない。ふわふわと柔らかい肌、触れる事はもう無い、それを思い出す。そして、叫ぶ。どうしてあの時守れなかった! 何度も何度も自分を責めた。……心臓を何度も動かしてみても、すぐに止まるんだ……何て非力なんだって思ったよ。ティア、ティア、ティア……



ティアは俺の天使なんだ。だから、いつも空を見上げ両手を伸ばしていた。抱きしめても、腕の中には何も無い……俺が壊れるには、そんなに時間はかからなかったよ。あんな思いはもう懲り懲りだ。失う怖さを思い切り感じた。


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