第9話 美しい地球
……“見つけた”……
その声を聞いた私は、持っていた荷物を落とした。怖い! その狂気に満ちた感情が恐怖を誘う、背中を這ってくる寒気に立ち止まり動けなくなる。アキラもその場に止まる。きっとアキラにも聞こえたはず。
怖い! 怖いわ! アキラにしがみつく。
「あゆみ! 大丈夫だ! 俺がいる」
テレポートで部屋に入る。私はずっと震えが止まらない。
アキラも、その“声”を聞いた。
今のはこの気配、アイツか。昨日、俺を宇宙に飛ばした奴だ。それに、俺、リーキャスを殺した奴だ!
どうする? 奴はどう出てくる。震える私にアキラは
「一緒に風呂に入ろう」
そう優しく言ってくれた。
荷物は冷蔵庫にテレポートで入れる。干してあった洗濯物を取り込む。窓に鍵をかける。風呂の自動スイッチを入れた。力を使ってそれらを行った。震える私の服をアキラは脱がす、自分も服を脱いで二人で一緒に浴室に入った。
お風呂に入り湯舟に浸かる。これでは昨日と同じだ。アキラはあれからずっと何か考えている。ふと気配を感じて見ると浴室にあの狐がいた。
「心配してくれるの? 優しい子ね。ありがとう」
そう言って狐の頭を撫でる。すると、ぴょんとアキラの頭に乗る。驚いたアキラが
「おわー!」
と、変な声を上げる。それが可笑しくて笑う。
「やっと笑ってくれたな。お前はそうやって笑っていろ。お前の笑顔はこの地球の自然を元気にする。俺もお前の笑顔が好きだよ。それにしてもこの狐よっぽどお前が好きなんだな。ほらよ」
狐を私に渡す。私に頬ずりをする狐。物質としてある訳ではないので触っているとは言えないけれど、微かに温もりを感じる。私は沢山愛されて育った。だから、守りたいこの地球の自然を。私にも何か出来ないかな? 守ってもらってばかりなのは嫌だ。アキラの弱点になんかなりたくない。狐を降ろすと、狐は尻尾を振って消える。
「のぼせるから出るわね」
「ああーもっと見ていたいのになあ、もう出るのかよ」
そう言って私の肩にちゅっとキスをする。
「じゃあ俺も出る」
「髪を乾かすから、もう少し入っていていいのよ」
「嫌だ、俺も出る。俺があゆみの髪にドライヤーを当てるよ。あゆみの髪が風になびくの好きなんだ」
そうだ、リーもそう言っていた。だからよく一緒に窓辺に居た。
「変わらないのね。姿はお互い変わったのに」
アキラに髪を乾かしてもらいながら言う。
「そうだな、器がいくら変わっても持っている魂は変わらない。幾度転生しても俺はお前をきっとまた見つける」
髪が乾くとお互いに向き合い存在を確認するように抱き合うと、また、アキラに抱えられベッドへ入る。その頃には、私の震えは収まり温かい何かに包まれてるいるのを感じていた。
初めは優しいキスから、これはアキラが私に力を注いでくれていたのね、だからかしら? 翌日は疲れが残っていない。今頃気が付くなんて‥‥‥ありがとう。アキラ。
今日もなかなか激しく愛された。
「あゆみ」
そう言ってアキラは私をそっと抱きしめる。そして、
「どうだ? まだ、痛いか? そのなんだ、俺そういうの解らないから‥‥‥今夜は、その‥‥‥割と控えめだったと思うんだが‥‥‥」
耳元で言われる。そういえば今日は何だかフワフワしてたかな?
「うん。普通がどうなのか私も解らないから、でも、今夜はいつもと番ってフワフワしていたかな?」
「良かった。今夜はいつになく気持ち良さそうにしていたから、苦痛じゃないのは解っていたけど‥‥‥初めてって分かってから、どうやって扱ったらいいのか迷っていたんだ。つい感情が高ぶって乱暴になってやしなかったかな? とか」
「確かに気持ち良いより痛いが強かったから、正直初めの頃は怖かったの」
「そうなんだ‥‥‥怖がらせていたのか、俺‥‥‥何かちょっと凹むなあ、こういうのって回数じゃないんだよな、やっと解ったよ。今までは感情をぶつけていたって感じだから、ほら、俺って体力自信あるし‥‥‥これからはもっと優しくするよ」
としょげている。そんなアキラに私は、
「優しくしてくれていたよ。ただ、私の身体がアキラについて行けてなかったって感じだから‥‥‥心配してくれてありがとう」
そんな事を考えていたなんて。アキラの腕の中は安心する。探そう私も、何か出来ないか考えなくては、何のために前世を思い出したの! こんなに弱くてはダメだ。その時、身体の中が温かくなった。
「あゆみ……おまえ……」
不思議そうに私を見る。えっ私の身体が光っている! そして、ベッドの横にティアーヌが立っている。アキラの頬にそっと触れる。そして、その姿はすーっと消えて行く。その姿にアキラは手を伸ばす、ティア! 声には出さないが、そう切なく言ったように思えた。これは、どういう事? 何が起こったのか分からない。ただ、私の力が強くなっている。あんなに色々見えていた物が見えない。見えないって普通はこんな感じなのね。アキラは普段は見えないと言っていた。見ようとすると見えるのだと。
「お前……どんどん力が強くなっている。どうなっている?」
「解らないわ。でも感じるの、この地球上の自然の力を。見えるわ。海の中も」
「あゆみ……アストラル体が、身体から出ている。凄い。光っている!」
私はその時、地球上で旅をして来た。大気の中に入り空を飛ぶ。遠く高く真下には青く美しい地球が見える。ここは? その時ドンと何かにぶつかった。はっと、目を開けると心配そうに見ているアキラがいた。
「大丈夫よ。私はこの地球の空気になったの。沢山見てきた。今、私の力は地球と繋がったのよ」
「凄いな、こんな加護初めて見た。お前を守らなければと思っていたが、その必要はないかも知れない。誰よりも強いよ」
「そうなの?」
「ああ。そうだよ」
アキラがそう言ってくれた。自分の身は自分で守る。何だろうこの自信さっきまでの自分とは違う。
「お帰り、旅は楽しかったかい」
私を抱きしめて言う、
「ええ、素敵だった。本当に美しいわ。この地球は」
「そう言えば、明日はお婆さまが来るって言ってたわよね? 何時頃に来られるの?」
「ちょっと待てよ確認する。んー‥‥AM6時着って、早すぎないか? よく飛行機のチケット取れたな」
目覚ましをセットしないと、アラームをセットする。それを見ていたアキラが
「大丈夫だよ。婆ちゃんここ知ってるから、タクシー使って来るって」
「でも、私、アキラの身内に初めて会うのよ。それに、ここに住んでるし、何て言ったらいいのかしら?」
「嫁になりますでいいんじゃないか?」
何か、今日のアキラの気持ちが分かる……。
※ ※
翌朝、早めに起きて掃除をする。アキラは洗濯物を干している。そこで、チャイムが鳴った。モニターにはお婆様がいるのが見える。返事をして、ドアを開ける。
「久しぶりアキラ! その子があゆみさんかい?」
「はい! 初めまして……」
そこまで言うとお婆様がボロボロ泣き始める。
「どうした! 婆ちゃん! どっか痛いのか?」
アキラが慌てる。
「ティアーヌ様、お久しゅうございます」
後ろの人も泣いてる、あっ!
「写真を見た時まさかと、思っておりました。また、お会いできるなんて‥‥‥長生きしてよかった」
アキラは首を傾げている。自分には覚えがないと言っているようだ。
「そうね、リーには分からないわよ。だって、私のメイド長だった人だもの」
アキラは持っていたキャリーバックを落とす。
「えー! 何で婆ちゃん言ってくれないんだ? 写真は随分前に送ったよな?」
「ほれ」
とスマホの画面を見せる。待ち受けにはあの写真が、ポールと撮った写真が貼られていた。あらま。
「婆ちゃんもかよ‥‥‥」
と頭を抱えるアキラ。
「当たり前だろ。ネットで見つけた時には、心が震えたわ。そこから当時を思い出して涙が止まらなかった。私はアキラみたいには見えないが、今、私にも見えるようにお姿を見せてくれているよ」
「ああ、そうかい! 全く、ファンクラブでも出来そうだな?」
「知らんのか? もう、出来てるよ。私も会員だ」
「はあ……知らなかった。その姫さまと結婚しようとしてる俺って……考えたら恐ろしい、ファンクラブの会員数は聞かない方がいいな、俺のメンタルがやられる」
頭を抱えるアキラ。凄い事になっていたのね。ポールが会長だったりしてなんて思うとほっこりするのは、私だけ?
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