第8話 報告
お店に二人で入る。
「いらっしゃい!」
マスターはいつもの様に優しく迎えてくれる、
「すみません、急にお休みして」
「大丈夫だよ。うちのワイフも分かってくれているから喜んで手伝ってくれている。後から、ゆっくり逢ってくれないか? ティアーヌ姫のファンなんだ」
「えーっと。ランチを食べに来ましたそれと、ご相談がありまして‥‥‥」
と照れながら話す、そんなアキラにマスターは気づく。
「わかったよ。ランチタイムが終われば忙しくないから、後はバイトくん達でも大丈夫だ」
私達はランチを食べて食後のコーヒーを飲んで話した。やっぱりこういうお店って女子が多いから、アキラを見る人多いなあ。
アキラはアキラで、結構カップル多いな、おい! 彼女といるくせにあゆみを見んじゃねえよ! 全く!
あら? 何故アキラが威嚇しているのかしら? そこで、注文していないケーキが出される。
「サービスです」
こそッと私達に耳打ちをしてくれたのはマスターの奥さんだった。テーブルにケーキを置いた後嬉しそうに小走りにマスターの所に行く。お盆で顔を隠している。仕草も可愛いわ。と、ケーキに目をやるとこれは!
「わー! これ、この店のケーキの中で私の一番好きなケーキなの。ここのケーキはマスターの奥さんが手作りしているのよ」
「へぇーそうなんだ。何か若いよな? 歳いくつなんだろう?」
「確かに見た目、高校生位よね。余り化粧していないから可愛いわ」
そんなやり取りをして話した。
ランチタイムが終わり、マスターから呼ばれた。いつもの様にスタッフ以外お断りのドアを開けて入る。そこには、マスターの奥さんもいた。奥さんはすっと立ち上がると、私にむかってスカートの裾を摘まんで一礼する。
「ティアーヌ様、ご挨拶が遅れてすみません。いつも、夫がお世話になっております」
そう言われてちょっと焦る。
「今はあゆみです。そう呼んで下さい」
と笑顔で返す。
マスターが、
「それで? 今日は何の相談かな?」
物凄い笑顔で聞いてくる。これはきっと分かってる顔だわ。アキラは照れながら、
「こんな時期に……その、なんだが。実はあゆみにプロポーズしたんだ」
終始照れているアキラにマスターは
「ほほーそれはおめでとう!」
アキラは顔を上げてマスターを真剣に見る。
「で、こういうの分からなくて、これからどうすればいいのかな? って」
マスターの隣にいた奥さんは
「ご両親には話したの? まずは挨拶からよ」
「そっかー、よくテレビとかでやるやつだよな。娘さん下さいみたいな。俺、両親いないからさ。今は身内は婆ちゃんだけなんだ」
「そうなの! 知らなかった」
私は聞いていなかった。というか、アキラは自分の事を殆ど話さないから‥‥‥。
「今初めて言ったから知らなくて当然だよ。気にするな、あのマンションは両親が残してくれた物だ。俺がオーナーだよ。婆ちゃんは海外で老後は楽しくやっている。だから、心配ない。身を固めろってうるさかったからこれで安心するさ、あゆみは?」
「今、父は海外に出張中で来週帰って来るの。母にはお付き合いしている人がいて一緒に住んでいるって話してあるわ」
「なんか緊張するな」
マスターはメガネを片手で抱えて位置を直しながら、ふっと笑う。
「へぇーアキラがね。なかなか可愛いいじゃないか」
アキラは下を向き照れている。そんなアキラも可愛いわ。そう思って見ていたら奥さんが
「それなら、先にあゆみさんのお母さまにご挨拶に行ってみたら? 味方がいるって安心よ」
「そうよね、それじゃあ、母は家に居るから今から電話して聞いてみるわ」
スマホを出して話す。側でアキラがそわそわしている。電話でその事を離すと母はとても喜んでくれた。私は電話を切って振り返り
「大丈夫だって。楽しみに待っているって! 今からいらっしゃいって言われたわ」
はあーと大きなため息をアキラがする。マスターだってこれを乗り越えたんだよな。アキラは思う‥‥‥。そんなアキラを察してかマスターは、
「俺の場合の一度叩き出されているからね。お前にはやらん! って凄かったよ。まだ10代だったしね。そんなお父さんも今では孫にメロメロで、今日も喜んで預かってくれているよ」
「そうなんですね。奥様お若く見えるからとてもお子さんがいるように見えないです」
すると奥さまの口から驚きの発言が‥‥‥
「私、今年で20才です」
なんと! 若いはずだわ。
「高校に入学してすぐお付き合いを初めていて、その後は卒業してすぐ結婚したんです」
なる程そういう事ね、大先輩だわ!その後も色々話を聞いてくれた。
「それじゃあ、ちゃんと手土産持って行くのよ! 頑張って!」
と、応援され家に向かう。家の近くのお店で母の好きな和菓子を買って行く。隣のアキラはずっと黙ったまま緊張しているのが分かる。何だか新鮮な感じだわ。家に帰るのも久しぶりだし。私の家に着いた。一応インターフォンを鳴らす。インターフォン越しに向かって、
「ただいま! お母さん」
そして玄関が開いて母が出迎えてくれた。母の顔を見た途端アキラが物凄く緊張しているのが解る。どうしたのかしら?
「お帰りなさい、あゆみ、お隣がアキラさんね」
笑顔の母とは反対にアキラの顔は引きつって焦る。ちょっと待て! この人って! 女王陛下だ! なんてこった。じゃあ父親はまさか、冷や汗が出る。
「どうぞ! 上がって下さい」
「お、お邪魔します」
そう言って玄関を上がる。
あらやだ、アキラってば、手と足一緒に出てる。それでも歩ける何て器用だわ、
「こ、これをお持ちしました」
とさっき買って来た和菓子の袋を差し出す。その姿も可笑しくてぷっと笑う、へんなの。
あゆみ~、分かっているのかな? 見えているはずだが、俺は聞いてないぞ! リビングに座る。冷や汗が止まらない。女王陛下の前だぞ。それに今もあゆみの母親だ。当たり前か‥‥‥。
私は母とお茶の用意をする。そうかきっと母の後ろの人にビックリしているのね。あら? 私言ってなかったかも、用意が出来てリビングに持って行く。アキラが
「お嬢様とお付き合いさせてもらっている西野アキラと言います。実は、俺達結婚しようと思ってます!」
と、頭を下げて言う、
「あなたアキラさんと言ったわよね、この子色々見えている事は知っているのよね」
「はい、俺も見えるのでわかります」
すると、母親は威厳のある声で、
「リーキャス・トレイン、あなたですね」
はっと頭を上げ見つめる。知っているんだ!
「そうです! 女王陛下!」
ソファーから立ち上がり片膝をついて頭を下げる。
「あらやだごめんなさい。そんなつもりはなかったのだけど。座って頂戴、今は普通の主婦よ」
そう言われ座り直す。驚いた! つい、昔の様にやってしまったけれど流石だ。あゆみの母親だけに只者ではないだろうと思っていたが、そう来るか~……
「本当に嬉しいわ。結婚式があげられるなんて! あの頃貴方達にしてあげられなかったから心残りだったの」
「じゃあ、お母さんは賛成してくれるのね」
「勿論よ! 来週お父さん帰って来るからびっくりさせましょう!」
ほっと胸を撫で下す、そこでアキラの話になる。
「そう、ご両親はさぞ残念だったでしょうに。海外にいるおばあ様は、いつ日本に来られるのかしら? お会いしたいわ!」
「嫁さんになる人の顔見たいって言ったから、写真は送ってあります」
まあ! アキラってば、おばあさまには言っているのね。
「身を固めろってうるさくて、将来の嫁さんだって送ったんです。そしたら、いきなり急に顔が見たいからそっちに行くって‥‥‥実は明日、日本に来るんです」
「あら、嬉しい! 明日はここで、夕飯を一緒に食べましょう!」
そう約束をして家を出た。帰り道。アキラが大きな溜息を吐く。
「あゆみ~なんで言ってくれなかったんだ? 心臓止まるかと思ったー」
「だって、私のお母さんよ?」
‥‥‥もういいや、来週の事を考えると気が重い。アキラはそう思った。
「お買い物して帰りましょう」
買い物袋を抱えて帰る、もうすぐマンションだ。と、誰かとすれ違う、
‥‥‥“見つけた! 姫と一緒か”‥‥‥
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